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第12話
「どこら辺って言われても……。うーんそうだな、強いて上げれば秀哉の甘い匂いと、この間見せてもらった乳首も忘れらんねぇし」
「……なんだよそれ」
泰士はΩの身体が目的みたいなことを平気で口にする。
けれど俺だって似たようなものだ。
泰士の外見に強く惹かれているのだから。
じわりと背中に汗が滲みそうだった。実は泰士に匂いと乳首が気になると言われただけで、心臓がどきどきしている。
「秀哉の匂いが強くなってる気がするんだけど、病院で何て言われた?」
発情期が極間近に迫っている……なんて、いくら親友でもこんなことをαに打ち明けてよいのだろうか。
でも泰士なら、大丈夫な気もする……。根拠はない。ないけれど。
あるとすれば、俺の匂いが気になると言いながら、泰士の理性が揺らぐ気配を感じなかったことだ。
「検査したら発情期が近いって。急激なヒート予防の弱い薬を処方してもらって今飲んでる。あとは本格的にきちゃった時の頓服薬は持ち歩いてるし、避妊薬も強制的に処方された。避妊薬は家に置いてあるけどさ」
「そうなんだ。初めての発情期だったりして」
「……。だったら何だってんだよ」
泰士が俺を探る。俺は学校での泰士のことしか知らないのに。
知らず知らずのうちに俺の唇が不機嫌に突き出る。
「怒ってんの?聞かれるの嫌か?」
「ん?んんっ」
ふにっと唇を泰士の指で挟まれて、じろりと泰士に目をやると、その指がぱっと離れていく。
「あー、唇すら可愛い。キスしてぇ」
「っ!?いや、しねぇからな!友達同士でキスなんか!」
「だからそんな怒るなって。眉間の皺で可愛さ半減だぞ」
「可愛さ半減って。そもそも俺、可愛くないから……」
友人関係破綻の危機に陥りそうな台詞のオンパレードに、もしかしたら発情期が終わるまで泰士とは距離を取った方がいいのではないかという疑問が生まれた。
じとっと睨むように泰士を見ていると、泰士は箸を弁当箱の上に置き、急に俺の手を取って真顔で語り始めた。
「お前気をつけろよ。バースを公にしていないだけで、俺以外にもαがいるかもしれないし、ラット中のα、つまり箍が外れたαはΩが孕むまで長時間ヤる奴もいるらしいから。ヒートを収めるのに利用するなら俺にしとけよ。流石にΩとエッチしたことはまだないけど、俺もαの端くれだからΩのことちゃんと勉強してるし、だから頼ってほしい」
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