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第20話

もしかするとあの中の誰かが将来俺の番となる相手かもしれないのだ。 「そうじゃないかもしれないけど……、やめやめ、今考えても仕方ないや」 考えたところで自分がΩである現状が変わる筈もないし……。 こういうのはなるようにしかならないのだろう。 悩むべき場面で考えれば良いと自分に言い聞かせ、母親が運んできた素麺をずるずるとすすった。 その翌日は学校を休み、貴重な週末は初めての発情期、初めての少し強い抑制剤服用ということで自宅療養して過ごした。 週明け、発情期全開で襲い来るヒートの状態は大分緩和され、飲んでみたら気持ち悪かったという薬の副作用も殆ど消えた。 「あら、学校行くの?大丈夫?」 「うん。あんまり休むと授業ついていけなくなるし」 「そうねぇ……。でも紳士的なαの子達があんなにいるんだから大丈夫かしらね。無理しちゃダメよ」 「そんなに紳士的かよ。母さんやけにあいつらに肩入れするんだな」 「ヒート中のΩを前にして理性を保つのは至難の技よ。あの子達は信頼できると思うわ」 母親がそう言い切る。 自身がΩだからなのか、その言葉一つ一つに妙に説得力があり、聞かされた情報は頭に留めておいている。 でもさ……。 泰士はノリノリで俺とエッチしたけどね。 母親には話せない泰士との密事を飲み込んで、俺はいつも通り学校に登校した。 学校にはΩ性であることは届けてあるが、表面上はβだと偽りながら学校生活を送ってきた。 だが先日の発情のせいで、もしかしたら自分のバースが公になっているのではと不安だった。 しかし友人はいつも通りだし、周りの様子も全くいつもと変わりない。 本当にあのα達しか俺のΩに気付いていないんだとほっとした。 だが、昼休みに異変が訪れた。 「秀哉、わりぃーんだけど屋上きてくんない?」 泰士がいつもより歯切れ悪い喋りをする。 普通に屋上で飯食べようって話ならわかるが外はあいにく雨が降っている。 「雨だけど弁当屋上で食べるの?」 「いや、……弁当は階段で食おう」 「いいけどそれとは別に屋上?」 「話したいことがあってさ」 「……わかった」 何なんだ。気持ち悪いな。 いつもの泰士と違うこの変な感じ。 もしかして勢いで俺とエッチしたことを謝るつもりだろうか。 だとしたら責任の一端は俺にだってあるし、それでチャラにすればいいよな。 そんなことを考えながら泰士と屋上へ向かった。 屋上へのドアを泰士が開く。 泰士は先に俺を通した。

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