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第21話

しとしとと雨の降る屋上へ足を踏み入れたと同時に頭上から黒い影が俺を覆う。 仰ぎ見ると黒く大きな傘だった。 誰が差し出してくれたのだろうと柄を握る手から人物のシルエットをなぞるように上半身、顔へと視線を走らせた。 体幹が鍛えられていそうな胴体に広い肩幅、意思の強そうな眉と切れ長の眼、すっと通った鼻筋が先日のヒートで見掛けた中の一人だとすぐに気付いた。 その先には茶髪のふわっとした甘い顔立ちをした女子が好きそうなアイドル級の長身イケメンと、いかにも勉強ができそうな細い黒縁メガネを掛けた細身で長身の男、それから172~3センチであろう平均的な身長ではあるが顔立ちは派手で明るくグループの中心に居そうなイケメンが各々傘を片手に立っていた。 雨でフェロモンが流されてはいるが、薄く漂う香りを敏感に感じとる。 こいつらは多分全員αだ。 雨の屋上で傘を差してまで俺を呼び出したということは、母親の言っていたことがあながち嘘ではないということか。 「秀哉、驚かないで聞いて欲しいんだけど」 泰士がそう切り出した。 「ここにいるの、全員αなんだ。わざわざ雨の屋上に呼び出したのは人払いしたかったのと、こっちも反応しないように秀哉のフェロモンを少しでも雨で落としたかったからなんだけどさ」 やっぱりみんなα。それだけで心臓がどくんと大きく脈打ち、胸に小波を立てる。 「それで……?」 まさか母親が言っていたみたいに、ここにいる全員が俺と付き合いたいとか言う……? いやまさかな。 俺が俯きがちに目玉だけきょろきょろさせていたら、厚い胸板の奴が話始めた。 「中野秀哉、お前の名前はここにいる真鍋から聞いた。俺達は全員αだ。将来自分達の番となるΩを探している。まさかこの学校にΩがいるなんて思ってもみなかった。しかしここで出会えたことは奇跡に近い。聞けば中野は真鍋とは付き合っていないらしいじゃないか。そこでだ……」 その後に茶髪のふわふわイケメンが続いて言う。 「真鍋にだけ君を独占させるのは僕達からすれば極めて不公平。僕たちはαであり、出自も割とちゃんとしているし育ちだってそこそこ。なによりもΩとの出会いに運命を感じている。だから僕たちにもチャンスをくれないかな?」 「チャンス?」 自分たちがαであることや家柄が良いことなどをアピールしてきたのだろうが、さらりと自慢されたように感じる。 自然と顔が顰めっ面になってしまった。

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