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第31話
つまり近くで様子を窺うということだろう。
それを見張ると言わないで何と言う。
それに生徒会室はもう目の前だ。
「ともかく中まで入ってくんなよ」
「入らねぇよ。まさか会長が無理矢理秀哉を抱こうとするとは思えないし、そこはあまり心配してない。けど、秀哉がなぁ……」
「俺が何だよ」
泰士がじとっと俺を見詰めた。
言いたいことはわかる。
泰士に発情した俺は、いとも簡単に体を許した。
でもそれは俺の突然の発情と、泰士のキスに充てられたからだ。
要は性的ニュアンスを含む接触をしなけりゃいいんだと思う。
発情周期は安定してないからいつ次のヒートに襲われるかは不安だけど、ちゃんと処方された薬は飲んでるんだから大丈夫。
「秀哉、気持ちいいこと大好きだもんな」
そう言って泰士が溜め息を吐く。
反射的に俺の膝蹴りが泰士の尻にヒットした。
「いって……!」
「ムカつく。人のこと言えねぇだろ。泰士だってエッチ大好きじゃん。俺ばっかり淫乱みたいに言うなよな、ばーかっ」
俺はむすっとしたまま勢いよく生徒会室のドアをノックして返事も待たずに入室し、泰士に邪魔されないよう急いでドアを閉めた。
ドアを後ろ手にして一旦背中を預けほっと息をついた。
泰士をやっと撒いた気分だった。
「中野か?」
すっと流れるような大人びた低い声ではっと我に返る。
室内にある長テーブルの奥のデスクに花村先輩は座っていた。
「あ……、か、勝手に入ってすいません!あの、俺、中野秀哉です。先日はヒートの俺を介抱してくださってありがとうございました」
思わずしどろもどろになってしまったのは、花村先輩の濃いαの香りに圧倒されてしまったから。
αもフェロモン抑制とか、発情抑制とかの薬を飲むのが普通だと言われているが、花村先輩はちゃんと抑制しているのだろうか?
抑制していてこの香りだったら優秀なαなんだ、きっと。
花村先輩は俺を見てふっと柔らかく頬を緩めた。
男らしい大人っぽさと、子供みたいな表情が絶妙に絡み合い、かっこいいのに可愛いような。
何にしても目が離せずに思わず見惚れてしまった。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫だ。昼飯は持ってきたか?」
「あぁ、はい。俺大体いつも弁当なんです」
こっちにおいでとばかりに長テーブルの椅子を花村先輩が引いてくれたので「あざす」と礼を述べそこに腰を下ろした。
花村先輩も俺の隣にあった椅子に腰を下ろす。
向かい合わせとかじゃなく、隣で食べるんだ……。
まぁその方が真正面にイケメン据えるより緊張しないけど。
そんなことを考えてちらりと横目で花村先輩を覗き見ると、バチリと目が合った。
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