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第32話

どきっと心臓が小さく跳ねた。 「この間とは違って元気だな。いつもはそういう感じなのか」 「え……まぁ割りと元気が取り柄っていうか……」 そんな感じとはどういう感じ? ヒート時の俺が通常運転だったらヤバいだろ。 ……待てよ。 もしかして花村先輩は普段は品行方正な真面目ちゃんが好みかもしれないぞ。 じゃあいつもより少しかしこまっとくか。 いやいや、それじゃ本当の自分を隠すことになるし、花村先輩を騙すことになる。 恐らく超優良物件αである花村先輩を目の前にして俺はどう振る舞うのが正解なのか模索した。 「いいんじゃないか。元気が取り柄なのはいいことだ」 花村先輩が涼しげな目元を緩め優しく微笑む。 う、わぁ……、真性正統派イケメン、ま、まぶしい……! こんな至近距離で微笑まれてときめかない訳がない。 心臓はどきどきと、さっきよりもうるさく鼓動する。 「え、あ、はい」 「そう緊張するなよ。さ、食べよう。俺も弁当なんだ」 「あ……」 先輩の弁当はモノトーンを基調としたマドラスチェックのナフキンに包まれテーブルの上に置かれている。 ナフキンの柄がお父さん的で先輩らしいと言えばらしい。 「いつも弁当なんですか」 「まぁ大体な。栄養バランスがちゃんと摂れるようにって、母親が色々と口うるさいんだ」 「そうなんですか」 明らかにそうなんだろうけどうちとは違ってこの人はお坊っちゃまなのかもしれない。 お父さんは有名企業の社長だったり、はたまた先輩がどこか財閥の跡取りだったり……しないかな。 だったら玉の輿も夢じゃない。 「中野の家もそうじゃないのか」 う……。一般庶民の中でも中の下の家柄がばれてしまう。 でもまぁ隠すことでもないし、これで俺に興味を無くすならそれまでだってことだよな。 「えと……うちは栄養バランスがどうこうっていうより昼飯代節約するためですね。うちの母さん超ケチなんで、バス代渋って自転車で通学しろって言われる時もあったり……。でも甘いパンとか焼菓子とか無性に食べたくなるときがあるんで購買で買ったりもしますよ」 「そうか。甘いものか好きなのか?」 「いやそんなには……。時々食べたくなるくらいですかね」 「じゃあ、中野が無性に甘いものを食べたくなった時に駅前のクレープ屋にでも行くか」 「え、いいんですか。俺も気になってたんですよね。けど泰士は甘いもの興味ないし、俺も財布と相談しなきゃなんないこと多くて。あ、ちゃんと財布に中身入ってるかチェックしてから行きますから安心してくださいね」

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