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第33話

「あ、いや、俺が誘ったんだしご馳走するよ」 「いいんですか」 「あぁ」 「やった、あざす」 学校からの最寄り駅は東口は栄えているのだが反対に西口は住宅街が多く、学校は東口側でもあるため西口に下り立つことは滅多にない。 先輩が誘ったくれたクレープ屋は駅の西口にあった。 その店は女子の間ではかなり話題となっていて、俺も興味はあったが女子が騒いでいるものに同調する勇気はないし、一緒に行ってくれるような友達もいないし、それ以前に財布が寒くて指をくわえながら思いを馳せるに留めていた。 でも先輩と一緒なら、女子に目撃されたとしてもからかわれることもないだろう。 それに先輩が奢ってくれるそうなのでこの機会を逃さぬ手はない。 思わず頬を緩ませると、隣で俺を見ていた先輩が「ふふ」と声を漏らして笑った。 もしかして俺、恥ずかしい奴だった? クレープに喜び奢ってもらえることに笑顔し……、ダメΩと思われてないか? 呆れられたのかも……? 「中野は素直でわかりやすいな」 「え……」 先輩の言葉は俺の予想したものとは全く違っていた。 「元気で明るくて素直で。隠し事ができないタイプなのか好感が持てる」 「……はぁ」 誉められてる?誉められてるんだよな? どうリアクションを取ればいいのか考え倦ねた。 先輩は話し続ける。 「この学校にΩがいるなんてあの時までは知らなかった。あの時の中野は強烈なΩフェロモンを振り撒き、男にしては頼りない体と妖艶な眼差しで引き寄せられた俺たちαを虜にした。あの中野と今の中野とは大分雰囲気も印象も違うな」 「それってどういう……」 どういう意味? 俺は真横にある先輩の整った顔を眺めながら首を傾げた。 「どっちの中野も魅力的ということだ」 「あ、あざ……す」 ほぼ初対面のような人間にここまで誉められることなど未だかつてあっただろうか。 いや、ない。ないぞ。 俺がΩじゃなきゃ、知り合いにすらならなさそうな雲の上の人。 花村先輩の印象はそんな感じだったのだが、こんなに気さくに話してくれて俺に興味を持ってくれている。 ヒートとか煩わしいこともあるけど、俺、Ωで良かったかも。 でも、こんな極上のαである花村先輩はフリーなのか? 俺は手元の弁当を広げながら思い切って聞いてみることにした。 「あのぉ……」 「なんだ?」 「先輩、恋人はいないんですか?」 「……」 少し変な間の後、先輩がふっと笑った。 「今年は大学受験が控えている。浮わついた恋愛事に気を削がれている場合じゃない。だから恋人はいないんだが……、中野のことは知りたいと思っている」

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