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第34話
「知りたい……?」
「あぁ。これを口にするのは気が引けるんだが、中野がΩだから中野のことを知りたいと思うのは間違いなく理由の一つではある。だがここで知り合えたのも何かの縁だ。俺はその縁を大切にしたい。それにバースを抜きにしても中野は見ていて飽きないし友人として付き合うというのも悪くない」
「……はい」
これは……。
俺は先輩と目を合わせ辛くなり、不自然に瞼を伏せた。
天然記念物ものの真っ直ぐに誠実で馬鹿正直な生粋のイケメンだ。
泰士みたいに取り敢えずエロいことしてイチャつきたい人種とは明らかに違っている。
どうしよう。対応の仕方がわからない。
それに俺だって突き詰めれば婚活目的のα探しをしているわけだから、花村先輩がそれに値しない人物であればさっさと次を当たろうなどとこの機会を軽く考えていた。
先輩が縁を大切にしたいと言ってくれたことに対して大変失礼なことだよな。
「さ、食べようか。いただきます」
「あ、はい、いただきます」
花村先輩は明らかに困惑気味の俺を問い詰めることなく大きな二段弁当の蓋を開ける。
ちらりとそちらに目をやると、彩り鮮やかで様々な食材を使っているであろう惣菜の数々がぎゅっと隙間なく詰め込まれていた。
下の段は真っ白な白米に梅干しが入っている。
「すご。店で売ってる弁当みたい」
「そうか?」
「はい」
それに比べて自分の弁当は……。
考えたところで急に弁当の中身が変わるわけでもなく、ただ昼休みが刻々と過ぎていくだけなので、俺も遠慮なく弁当箱の蓋を開ける。
先輩も俺の弁当が気になったみたいできれいな黄色のだし巻き玉子をぱくっと口に入れながらこっちを見ていた。
「俺んちのは、まぁ、普通。っていうか、中の下弁当って感じです。はは」
「いや、美味そうだぞ」
俺の弁当は昨夜の夕飯の残り物である唐揚げがメインだった。
ちぎったレタスに唐揚げがゴロゴロ置かれ、隙間にはプチトマト。それから1/4にカットしたオレンジ。
至って普通の弁当だとは思うが、先輩の具材豊かな昇華弁当様の豪華なものを見てしまったら俺のなんて……と誰しもがなるだろう。
「いやぁ、夕飯の残り物ですよ。先輩のお母さんすごいですね。こんな何種類ものおかず作って。うちとは大違い」
「夕飯の残りか。ということは昨晩は唐揚げだったということだな。そうだ、俺のおかずと中野の唐揚げ、1つ交換しないか?どれか食べたいものはある?」
「え……こんなのと交換でいいんですか」
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