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第36話
その後も昼休みを共に過ごした。
話題は好きな食べ物、スポーツなど、個人的且つ健全なことばかりで恋人として付き合っているような感覚は全くない。
元々花村先輩は受験生で本当にそれどころではないのだろう。
俺みたいにガツガツ番探しをしている風でもなければ、恋愛的アプローチだってない。
αとΩ、惹かれ合う運命のバースが、部屋に2人きりだというのに甘い雰囲気などこれっぽっちも漂わず、ただ雑談しながら昼食をとるだけ。
ということは、前に先輩が言っていたように友達としてこれから宜しくということなのかもしれない。
因みに先輩の好きな食べ物は大根おろしとイカ。好きなスポーツはバスケットボールだそうだ。
何となく大根おろしもイカもバスケも、落ち着いている先輩に似合っている気がする。
ついでに俺はオムライスと甘口カレーが好きで、スポーツは見るだけなら割と何でも入り込める。
それから例のクレープ屋だが、今週末の金曜日に行くことになった。
その日は生徒会の仕事はオフだそうで、先輩の都合に合わせてのデートだ。
……先輩の様子を見ていると、これをデートと言っていいのかはわからないけど、俺はそこに行ってみたかったので内心凄く楽しみにしていた。
毎日が過ぎていくのを指折り数え、花村先輩とのデート当日。
あまりにそわそわしていたのか泰士に何かあったのか聞かれてしまった。
「あー、わかる?」
「会長と何か進展でもあった……とか?」
泰士は若干むすっとした表情で俺の顔をじっと見詰めている。
「あるわけないだろ。会長は受験生で生徒会に学業に忙しいから恋愛なんてしてる暇はないんだってさ。けど俺とは友達になろうって言ってくれたんだ。今日はその延長で駅向こうのクレープ屋に連れてってくれるっていうから奢られに行くだけなんだけど、前から行ってみたかったから楽しみでさ」
「へぇ……そんなの俺がいつでも付き合ってやるのに。つーか、秀哉を目の前にして何もしねぇとか、できんだな。友達か……ありえねぇな」
「泰士の性欲が強すぎんじゃねぇの?」
俺がからかう口調でそう言うと泰士が首を竦める。
「否定はしねぇけど、この性欲は秀哉限定だ。今だってキスしてぇし。唇可愛い」
いくらここが教室の角の隅っこだからって不用意な発言は止めてほしい。
思わず自分の手で泰士の口を塞ぐ。
手の下で泰士の軽い口がもごもごしている。
俺はΩを隠して生きてるんだ。
βの振りして泰士とイチャイチャしていたら変に勘ぐられるか、ゲイ認定されてクラスメイトから遠巻きに蔑んだ目を向けられそう。
そんなの嫌だ。平穏な学校生活を送りたい。
「や、ばか、やめろよこんなとこで」
泰士は俺の手をやんわりと外し、はっと息を吐いた。
「流石にこんなとこで手ぇ出さねぇわ。……なぁ、そのクレープ屋俺も行っちゃだめ?」
「だめ」
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