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第37話

「なんで」 「何でってそりゃデートだからに決まってんだろ。そう思ってんのは俺だけなんだろうけどさ……」 「いやそうとも限らねぇよ。お前に興味はありませんって顔で油断させといて、ガオーッてさ」 泰士が両手を鉤爪のようにクッと立てて体の正面で構え狼の真似事をしてみせた。 「まさか」 「わかんねぇぞ。もしくは秀哉と会うときだけ強力なラット抑制剤飲んでて、薬が切れた途端に野獣に変身!ってことだって有り得る」 あんなに温和で人当たりの良い出来た人間が果たしてそんな風になるだろうか。 「……ないな」 「えー、もうちょっと危機感を持て、秀哉」 そんなことを言われても、危機に繋がる場面は訪れる気配がない。 あぁだこうだと泰士とこそこそ話していたら、「オオカミごっこでもしてんのか」とクラスメイトに笑われて、俺達は会話を中断した。 バースを疑われたら俺の学校生活が終わってしまう。 取り敢えず、先輩と向かう場所は人目につきやすい駅前で安全だからと泰士を納得させ、だからついてくるなよと釘を刺しておいた。 先輩との昼休みも気にして生徒会室近くで弁当食べたり、泰士って結構ストーカー体質なんだよなぁ。 それだけ心配されてるってのはわかるけど、それよりも獲物を横取りされたくないって泰士の顔に書いてあるのがわかる。 素直で可愛いなって思わなくもないけど、今は花村先輩のターンなんだから少しは遠慮してもらわないと。 放課後、帰り支度をしていたら教室に先輩がひょっこり顔を出した。 廊下も教室内も生徒会会長の登場にざわついている。 主に女子の声が黄色くざわめいていた。 「中野、行けるか?」 「あ、はい。今行きます」 まさか直接ここまで先輩が来るとは思っていなかった。 このざわつきはヤバい。 どういう繋がりなのかクラスメイトに聞かれる前に教室を出なきゃ。 「うわ、何だよ直接くるとか。明らかに秀哉を知ってる奴に対する牽制じゃん……性格悪そう」 ぼやく泰士をじろりと睨んで、俺は早々と教室を出た。 周囲の視線が突き刺さる。 どうして俺が先輩の横に並んでいるのか皆不思議に思っているのだろう。 「お待たせしました」 「いや、全然待ってない。それよりもしかして来ない方が良かったかな」 流石の先輩も自分達に注がれる視線に気付いたようだった。 「そんなことないですけど……。でも、週明けに先輩とはどういう関係なのか女子に問い詰められそう」 「あぁそうか。配慮が足りなかった、ごめんな。じゃあ遠い親戚とでも言っておくか」 「親戚……、ぶふっ、ねぇわ~っ」 思わず吹き出してしまった。 真面目な顔で何を言い出すかと思えば。 長身で逞しい先輩と、隣に並ぶと一層際立つ貧弱な俺が親戚って。あり得ないだろ。

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