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第38話

「そうか?」 大きな体で困ったようにして額を指先で掻く花村先輩は微笑ましい。 やっぱりこの人は悪い人ではなさそうだ。 泰士の奴が変なことを言うから少し身構えてしまったけれど、一気に肩の力が抜けた。 「だって全然似てないじゃないですか。先輩と俺。どこからどう見ても血縁者には見えませんよ」 「言われてみれば俺の親戚は割と皆身長が高いかもしれないな」 「でしょ。俺んちはみんな平均よりちょい下くらいですよ。全体的に中の下なんですよね」 「そんな。中野は可愛らしいと思うがなぁ。中野と俺の間に子供が産まれたとしたらきっと物凄く可愛いような気がする」 「……っ、こ、子供!?え、ちょ、ちょっと取り敢えずここ学校だし外出てから話しましょうか!?校門の外で待っててください!」 「ん?……うん?」 ぎょっとした。俺達の間に子供だなんて急に何を言うんだこの人は。 俺が狼狽えている理由にすら気付いていない様子だし。 ……しっかり者と見せかけて、天然なのかこの人? 只でさえ会長と並んで歩くのは人目を引くし、Ωであることがばれるかもしれないリスクが高いというのに。 3年の下足置き場へ花村先輩を押しやり、俺は2年の下足置き場へ向かった。 何だか今までの先輩と様子が違う。 俺を教室に迎えにくることだってわざわざしなくてもいいことだし、そんなのスマホでメッセージやり取りして、校門の外で会いましょう!でいいじゃないか。 いや待てよ。 はた、と気付いた。 ……もしかして俺と出掛けるのに舞い上がってたりする? いやまさか。 靴を履き替え校舎を出る。 俺はクレープ屋行ってみたかったし、先輩のこともう少し知りたいと思ったし、今日の約束は完全にデートだと思って多少浮かれていた事に相違ないけれど。 花村先輩も同じだったりして。 「いやいや、第一友達としてでいいって言われたじゃん……」 歩きながら思わず呟く。 校門のところでは花村先輩がにこにこしながら俺に向かって控えめに手を振っている。 「さぁ行こうか」 「あー、はい」 先輩の隣に並んで歩くと、余計に自分の貧弱さ加減を思い知らされる。 道路に映る自分達の影が、デコボコしていた。 色々とやっぱり釣り合わないなぁ。 「どうかしたか?」 「影があまりにでこぼこで。俺と先輩の身長差がすごいなぁなんて思って」 「言われてみれば確かに。何か気にしているのか?」 「俺ってチビだなぁ……と考えてました」 「そんなことはないだろう。これからまだ伸びるかもしれないし、それに今のままでも十分可愛らしくて俺は好きだけどな」 あ、まただ。 この人に可愛いと言われたのは何度目だろう。 「そうですか?これでも男なんだからもうちょっと逞しくなりたいとは思いますけど。ただ俺Ωなんで、筋肉とかはつきにくいみたいです」 最後の方は声が自然と小さくなってしまった。

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