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第39話

「そうか。体質も関係あるんだな」 そう言って花村先輩は気まずそうに口を噤んだ。 俺、何か場違いな発言をしてしまった?わかんないな……。 不意に訪れた沈黙がなんとなく俺達の空気を重くしたような気がして、これまでの言動を色々と思い返してみる。 けれど俺は至って普段通りに過ごしてきたし先輩にもいつもと変わりなく接したはずだ。 この気まずい空気には全く心当たりがない。 俺がさり気無く首を傾げていると、「中野」と遠慮がちな声で先輩に呼ばれた。 「はい?」 「その……何か困っていることがあれば言ってくれ。身長も伸び悩んでいるようだし、その上筋肉もつきにくいとなれば男子に押し付けられがちな力仕事の類は苦手だろう?Ωということを伏せているのだからそれを理由に断るのも難しいだろうし、俺が手伝えることならば直接生徒会室にでも言いにきてくれればいい。いつでも手を貸そう」 「はぁ……。あざっす……」 花村先輩はΩのせいで体が貧弱、非力と思い込んでいるようだった。 俺が貧弱なのはΩが理由だけでなく、俺の家系が全体的にチビだからなのだが。 そうは思ったが説明が面倒で頷くに留めておいた。 それにしてもこの人馬鹿みたいに真面目だ。 間違いなく善人の類。 騙されて金を巻き上げられたりしないかちょっと心配になる。 きっと、誠実で優しくて愛情深いのだろう。 こんな人と番になれたら安心できるのだろうか。 「中野?」 急に口数が少なくなった俺の顔を先輩に覗き込まれた。 「あ、ぼうっとしちゃいました。すいません。えっと、そうだ、そう言えば花村先輩は甘いもの好きなんですか?」 「嫌いじゃないという程度かな。たまに食べたくなると中野が言っていたように、俺も時々食べたくなるくらいだな」 「へぇ、そうなんですか。一緒ですね……へへ」 ほんの少しでも自分が好意を持つ相手との共通点が見付かると嬉しいものだ。 自然と頬が綻んだ。 俺達は駅の中を通って西口へと抜けた。 やはりこちら側は人通りが少なく、あまり人目に晒されたくない俺にとっては好都合だった。 件のクレープ屋は駅前から続く大通り沿いにあり、ミント色の建物に茶と白のチェック色をしたオーニングが可愛らしい外観の店だった。 「あの建物か?見た目から洒落てるな」 「確かにお洒落。いかにもクレープとか売ってそうな感じします。わ、女の子が結構いますね。俺達男同士だと注目されちゃうかな。先輩カッコいいし」 店の周辺には同じ高校の制服を着た女子生徒や見知らぬ制服の女子生徒もいて、クレープを買い求める為のちょっとした列ができていた。

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