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第42話

どっと溢れた体液からも大量のフェロモンが揮発しているのか、先輩は鼻と口元をぱっと手で押さえ一瞬俺から顔を背けた。 どうしようもない体をしている俺のせいではあるが、あからさまな先輩の態度にはちょっと傷ついた。 「……っ」 体は火照るし尻は濡れるし、先輩には顔を背けられ、どう対処したらいいのか焦り戸惑う傍ら、優しかった先輩が俺のヒートを拒絶するような態度をとったことに悔し涙が滲む。 ぐすっと鼻を啜り目尻の涙をぐいっと手の甲で擦った。 すると俺が泣いていることに先輩が気付き、手に取るように慌て始めた。 悪気があってやったわけじゃないのはわかる。 けれど、こんな自分を受け入れて欲しいと無意識に願う俺がいた。 「す、すまん。あまりにフェロモンが強烈で。このままだと薬が効く前に中野を襲ってしまいそうだ。立てるか?ここじゃ人目につきやすいから、移動しよう」 「お尻濡れちゃって……、立ったら余計に溢れちゃうから……っ」 無理、立てないと、首を横にふるふると振った。 「取り敢えず薬を」 先輩が息を荒くしたまま、俺が持っていた巾着から薬を取り出した。 「1錠でいいのか?」 俺がこくんと頷いたのを確認し、パッケージの中から錠剤を1粒出した。 耳元で「口を開けて」と優しく囁かれ、耳にかかる先輩の熱い吐息と魅力的な低音の声にまで体が反応し、ぴくりと俺の体が揺れる。 「……っ」 「がんばれ。これを乗りきってクレープ買いに行こう」 すごく食べたかったけど、正直クレープはまた今度でもいい。それよりこのピンチから脱出するのが先決。 俺が口を開けると先輩の指が口元へと運ばれて、舌の上に発情抑制剤を置かれた。 うえ、苦い。 先輩はまだ袋の中を覗いている。 「これは濡れた時の為の体液を吸収するグッズじゃないのか」 あ、そうかも。でも使ったことはないしこれを準備してくれた母さんからも何も聞いていない。 「……わかんない、けど、そうなんですかね」 先輩は俺の巾着袋を凝視しながら言った。 「これを使おう。取り敢えずこのままフェロモン垂れ流しで同じ場所に居続けるのはよくない。あそこの公園に行こう。今なら誰もいないみたいだし。立てないなら抱き上げても?」 「え、い、いいですよ、そんな。歩きますっ!」 こんな公道でそんなことされたらいくらなんでも怪しまれる。 俺は差し出された先輩の手に掴まり、腰を持ち上げた。 するとまた、どろりと体液が後ろから溢れ出る。 「うあ……!」 あまりの感触に上げた腰をまた下ろしてしまった。 ぺたんと座り込む俺を見て、先輩が俺の両脇に手を差し入れた。 「すぐそこだから運ぶぞ。ここでもたもたしてる方がよくないと思うんだ。自分の荷物だけ持って」 「え、あ、はい。……ひょわっ」 先輩はひょいと子供を抱き抱えるように軽々と俺を持ち上げた。先輩の肩に上半身を預けるような形で抱えられ、クレープ屋から遠ざかる。 あっという間に緑生い茂る公園へと連れて行かれた。

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