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第47話
嘘だろ……?
可愛いとかきれいとか色っぽいとか、泰士には可愛いって何度も言われたけど、本当にそんなこと先輩も思ってるのか?
そういう誉め言葉自体、俺とは無縁な言葉に聞こえる。
ただ、薬が効いてきたとはいえ、Ωのフェロモンを敏感に感じとるα以外の人間もいるだろうし、フェロモンのせいでいつ事故が起きてもおかしくないのは確かだ。
俺の身に何かあったらきっと責任感の強い先輩は自分自身を責めるのではないだろうか。
そんなの想像しただけで気分が悪くなる。
だったらここは大人しく送ってもらうのが最善か。
「わかりました。じゃあお願いします」
「あぁ」
先輩がほっとしたように、にっこり微笑んだ。
うん、これでよかったのかも。
その後公園の水場で手を洗い、俺と先輩は並んで元来た道を戻っていった。
もちろんクレープ屋へ向かう為だ。
「遅くなっちゃいましたね、すいません」
「謝るな。中野が悪いわけじゃない」
「いやでもヒート起こしかけたのは確かだしすごく迷惑かけたのは事実なので……。あ、でもとりあえずクレープが食べれるのはよかったですっ。だってこの機会逃がしたら、今度はいつ来れるかわかんないですもん。先輩みたいにこうして付き合ってくれる人なんてそういないし」
そう言いながら泰士を思い浮かべる。
あいつは甘いものなんて好きじゃないしな。
「そうでもないと思うぞ。クレープの好き好きは別として、中野は相当魅力的だと思う。……でも正直、そう思ってしまうのはやはり俺達がαとΩだからかもしれない。そう疑ってしまう自分も実はいる。実際俺は中野が生徒会室に昼食を取りにくるようになってから、中野の容姿を始め明るい性格と中野から立ち上る甘い香りに惹かれている。今まで付き合いがなかったから余計そうだと思うのだが、もしかするとαとΩの距離が近付くほど、互いに惹かれ合うのかもしれないな」
意味はわかる。
出会って間もない俺と先輩。
先輩は俺を魅力的だと言い、俺は先刻の一件で先輩を求めた。
バースのせいで互いを求め、そこに好意が伴えば立派な恋愛感情だ。
普通はそんなに急速な恋をするだろうか?
そう考えたら、少しだけ、心が沈んだ。
俺の心と同様に、発情めいた症状が治まるまで優に30分は経過し、辺りはもう暗くなっていた。
クレープ屋まで一直線。
その道すがら気まずい沈黙が訪れた。
「そっ、それにしたって、何であんな効能のあるものを黙って俺の鞄に忍び込ませたんだ、母さんは……」
少しの沈黙が続き思わずタンポンについての恨み言を口にした。
だって使い方すら知らなかった。
だから先輩の手を大いに煩わせることになってしまった。
先輩が機転を利かせて後ろに蓋をしてくれなかったら、今頃どろどろになって先輩に襲い掛かっていたことだろう。
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