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第48話

「それでもこうして今回はそれに助けられたのだから、中野のお袋さんには感謝だな」 先輩が笑いながら言った。 あんな醜態を晒し、αの凶暴なまでの性欲を刺激したというのに、先輩は優しくとても大人だ。 心も広いし外見だけでなく内面も歳が一つしか違わないのが嘘みたいに成熟している。 「先輩、カッコいいですね。大人みたい」 「大人……か。そうか、そんな風に見えるか」 ふと先輩の横顔を見ると、先輩は寂しそうに笑っている。 もしかして、まずいこと言っちゃった……? 俺は先輩の琴線に触れてしまったのかと少し狼狽えた。 「いや、あの、大人っぽいっていうのは、オヤジくさいとかそういうんじゃなくて、憧れちゃう感じの大人っていうか」 何か誤解を招いたのかもしれないと焦りながら取り繕うと、先輩は一瞬きょとんとした表情で俺を見て、その後くすくすと笑い始めた。 よかった。 どうやら思い過ごしだったみたいだ。 俺はほっと胸を撫で下ろす。 「中野はやっぱり面白いな。大人っぽいとかオヤジくさいとか、そんなことは気にしない。ただ……」 「ただ?」 「家へ帰れば会社経営をしている父親の仕事を手伝わされることもある。だから大人の世界に片足突っ込んだ状態が中野にはわかるのかと思って少し驚いた」 「そうだったんですか……」 何となく言った言葉が実は的を得ていたということだろうか。 しかしそんな深読みなど一切した覚えはない。 単純に花村先輩が大人っぽくてかっこいいなって、そう思っただけで。 でもそれが、実質先輩の置かれている立場に繋がっているってことだよな。 けれど超能力者じゃあるまいし、先輩が普段どうしているのかなんて知る筈もないのに先輩の内側を言い当ててしまったなんて。 もしかして俺、メンタリストみたいな仕事に向いてたりする? いや、ちょっと待てよ。 αとΩだから通じるものがあった? もしかして、もしかすると、これって運命的な何かだったりして。 いや。いやいや、違うでしょ。 ただ何も考えずに大人っぽくてかっこいいと言っただけで深い意味など全くなかったのに、何故か運命的な何かと結びつけようとしている俺がいた。 運命でしょ、いや、違うでしょ。 でももしかしたら運命の番とかいう都市伝説的な縁かもしれないぞ。 ……いや、まさかね。もしそうだったとしたらもっと他の兆候が現れるんじゃないのか? 思考が段々こんがらがってきて、先輩との会話もそっちのけでうーんうーんと唸りながら歩いていたら、クレープ屋はすぐ目の前にあった。

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