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第49話
「いらっしゃいませ」
クレープ店のカウンターから若い女性店員がひょっこりと顔を覗かせこちらへ向かって感じのいい笑顔を見せる。
彼女の笑顔は明らかに花村先輩へと向けられていた。
やっぱりαだから……だよなぁ。
当たり前のことなのに、流石αは無差別にモテるんだなと納得していると「どれにする?」と先輩に聞かれてはっとした。
「あー、えっと……クリームいっぱい入ってるやつがいいです」
「どれだ」
先輩がカウンター上に貼られているメニューに目を走らせるとすかさず彼女が声を発した。
「生クリーム増しできますよ。生クリームだけのシンプルなクレープにしますか?他にも定番フルーツのバナナクリームっていうのもありますし、チョコ生クリームも人気です」
「じゃあそれで!」
「どれ?」
先輩が俺を見てくすくす笑いながら言った。
「バナナクリームでっ」
テンションが上がって舞い上がりながら注文したのを笑われたのだとすぐにわかった。
大人な先輩とは程遠い俺の落ち着きのなさったら格好悪い。
隣にいたのが泰士ならこんな気持ちにはならなかっただろう。
顔が熱い。
俺は今何だかとても恥ずかしい……!
熱い頬に手を当てて、頬の赤みを隠していると先輩は既に財布から千円札を取り出して自分の分を注文している。
何を頼んだんだろうと横目で先輩の姿を窺い見る。
今日は先輩が奢ってくれるという約束で来ているのだけれど、目の前で自分の分まで代金を支払っているのを実際見ると、少し心が痛むな。
……でも先輩が奢るって言ってんだから奢られておこう。
女性店員から釣り銭を受け取った先輩がこっちへ顔を向けた。
「すぐできるって」
「あ、はい。先輩は何頼んだんですか」
「俺はレタスとツナマヨを挟んだクレープにした」
「惣菜系……」
「照り焼きチキンとツナマヨで少し悩んでしまった」
先輩はそう言いながら恥ずかしそうに頭に手をやる。
「ふふっ」
その姿が意外に可愛らしく、思わず笑いが溢れた。
クレープは3分程で出来上がり、「お待たせしました~」と女性店員から声をかけられ受け取った。
先輩を見る女性店員の目が完全にハートになっている。
わからないでもない。男の俺でも自分が女だったら先輩みたいな大人の男にきっと心奪われるだろう。
「先輩ごちそうさまです」
「俺の方こそありがとう。誘われなければ来れなかったところだ」
奢った癖に奢った相手に礼を言うとは。
できる男はやっぱり違うなぁ。
見本にしたいくらいだと心底感心した。
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