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第50話

俺の頼んだクレープは想像以上に生クリームが増量されていて、歩きながら食べるのでは歩く弾みでクリームを落としてしまいそうなほどの量だった。 どうしたもんかと考えていると、先輩が俺のクレープを持つ手元を見て苦笑いを浮かべながら言った。 「大サービスされたな。そうだ、さっきの公園のベンチに座って食べるか。止まって食べた方が良さそうだぞ」 俺は手に持つ自分のクレープに目を落とす。 スプーンで掬って食べるのが丁度良さそうな具合に生クリームがてんこ盛りだ。 確かにその通り、先輩の言うとおりだった。 「そうですね。その方がゆっくり食べられますよね」 「ちょっと待っててくれ」 先輩は再びクレープ屋のカウンターへ向かい、女性店員からスプーンを受け取り戻ってきた。 「食べにくいだろう?」という言葉と共に、先輩がプラスチックの白いスプーンを俺に差し出した。 「ありがとうございます」 ちょっとした気配りまでもが完璧な先輩に気後れめいたものを感じながらも顔が変ににやける。 本当に優しい人だ。 先輩の提案を受けて俺達は先ほど立ち寄った公園へ再び向かうことにした。 歩きながら、ふと思い出した。 先輩が父親の仕事を手伝わされる事もあると言っていたことを。 俺は全然先輩のことを知らない。 そう思った瞬間、口が勝手に開いていた。 「先輩のおとうさんは何のお仕事してるんですか?」 「気になるか?」 「いやそんなに気になるってほどでもないけど、さっき先輩が手伝いさせられるって言ってたから。何の仕事してんだろうなって、単なる好奇心です。あ、うちは俺がΩなだけでβ一家なんで、父親も平凡な会社員なんですけどね」 「そうか。中野は裏表がないな」 先輩は俺を見てくすくすと笑っている。 何か可笑しなこと言ったか、俺? 「……先輩?」 「あぁ、悪い。中野があまりに正直だから笑いが込み上げてきてしまった。中野は東信花村不動産って聞いたことあるか?俺の父親はそこの代表取締役なんだ」 「……?」 先輩の家は不動産業を営んでいるのか?くらいにぼんやりと理解する。 俺の表情から何かを汲み取ったのか先輩が言い足した。 「早い話がオフィスビルや商業施設、リゾート施設の建設、住宅関係などを取り扱うグループ企業だな」 流石の俺でもはっとした。 聞いたこと、あるかもしれない。東信花村不動産。 避暑地なんかに旅行で訪れた際立ち寄ったアウトレットなどのショッピングモールの看板に、東信花村不動産の名を見た記憶があるような。 この人もしかして超一流企業を経営する家の息子なのか? きっとそうだ。 「すげぇ……。俺てっきり街中で見かける貸しアパートとか仲介するちっちゃい不動産屋を想像してました」

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