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第52話

その後は何かラッキースケベ的なハプニングなど起きる筈もなく、ひたすらもぐもぐとクレープを咀嚼し当初の目的を果たした。 食べ終えて満足しながら一息つくと、先輩がじっと俺を見詰めていた。 「どうかしました?」 「うまそうに食ってたなと思って」 「めちゃくちゃ美味しかったです。ごちそうさまでした」 俺の腹も心も満たされて、礼を言いながら満面の笑顔を先輩に見せた。 しかし「どういたしまして」と返事をくれた先輩の表情は、鈍感な俺でもわかるくらい何とも言えない微妙な顔で。 「どうしたんですか?」 俺は後先考えずに思わずそう尋ねてしまった。 その3秒後には、いや、どうもしてないかもしれないよな……と、変な質問をしてしまったかもしれない自分にツッコんだけれど。 だが、俺の勘は当たっていた。 「俺は中野に凄く失礼なことをしている」 「え?失礼なこと?先輩が?……いやそれは俺が先輩に失礼なことをしているの間違いでは……?」 唐突に失礼な事をしていると言われてもピンと来ないが、俺だってそこまで失礼なことをした覚えはない。多分。 ……ヒートの起こしかけを治めてもらったのは失礼にあたるのかな。 ……わからん。 俺が首をちょこんと傾げると先輩は俺を見ながら発言に抵抗があるのか、眉の間に少しだけ皺を寄せて話を続けた。 「実は許嫁がいるんだ」 「許嫁?……所謂、フィアンセというやつですか?」 全くもってピンとこない。 フィアンセですかなどと言いながら、どちらも耳に馴染みのない単語だなと頭の片隅で考えて言葉の意味を思い出す。 「あぁ、そうとも言うな」 「はぁ……、は?、え、婚約者ってことですか?まだ高校生なのに!?」 「まぁそうだな。普通はまだ高校生なのにって思うだろう。当事者である俺ですら、ずっと以前から親に聞かされてきたことが、段々と現実味を帯びてきたというくらいの認識しかないんだが、それについて今まで逆らう気持ちは全く持ち合わせていなかった」 「……大企業の跡取りですもんね。なんか、俺まで複雑な気持ちになりそうです」 有無を言わせない決められた相手との結婚。 それを受け入れなければならない先輩の立場というものがあるのだろう。 凡人には理解できない世界だ。 「敷かれたレールの上を走るのが自分の役目であり、走り続けることが親孝行でもあるのだと思ってきたのだが。……今初めて、そこからはみ出したてしまいたいと思っている」 「なんでですか……?」 αの中でもトップクラスのエリートへの道が約束されているだろうになぜ? そして俺に何の失礼を働いたんだよ先輩。 ワケがわかんねぇよ……。 俺の思考が混乱を極めた。

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