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「ああ、おかえり、契……と、氷高くんも一緒か」
「ただいま帰りました、旦那様。本日は契さまと街へショッピングへ行って参りました」
「へえ……そうか。氷高くんが契と仲良くしてくれて嬉しいよ」
二人が家に帰ると、絃がすでに帰宅していた。絃は帰る時間が日によって異なり、この時間に家にいるということはあまりない。そのため契は彼と顔を合わせるのが数日ぶりであった。
「父さん……別に俺、氷高と仲がいいわけじゃないよ」
「そうなのか? ずいぶんと楽しそうな顔をして帰ってきたから仲良しなんだと思ったよ」
「楽しそうな顔とか、してないっ」
契は、絃に自分が氷高と一緒にいるところを見られて少し恥ずかしかった。というのも、あたりまえだが絃は契と氷高が一回はセックスをしたことも、先ほどキスをしたことも知らないわけで。そんな彼の前で「ただの執事と主人ですよ」といった顔をしていることに、契はこそばゆい気持ちになったのだった。例えるなら、親に秘密基地を隠す子供のような。
しかし、そんな契の気持ちなんて知ってか知らずか、氷高はいつもの調子で絃と会話をしている。氷高は長いことこの屋敷に勤めている執事なため、絃かの信頼も絶大だ。二人はまるで旧知の友人のように、楽しげに会話をしていた。
「……」
契は、なんとなくそんな二人を眺めていた。
雇い主と会話を交わす、氷高。親しげに話してはいるが、あくまで執事としての態度は崩さない。その姿は、あまりにも洗練されていて……これぞ、執事の鑑といった風だ。きっと彼ならばヴィクトリア朝のお屋敷でも優秀に業務をこなせるだろう。
……とにかく、今の氷高はすごかった。ほかの使用人と比べると頭一つ抜けていた。
絃と話している氷高を見ると、「執事としての氷高」を意識してしまって、契はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。だって、さっきまではあんなに変態で強引だったのに……まるで、ちがう。
俺にだけ、ああいう顔を見せるんだな。なんて。そう思うとなんだかどきどきしてくる。
「契。そろそろ夕食の準備ができる。着替えて、準備をしてきなさい」
「それでは私もそのお手伝いをします。いきましょう、契さま」
「へっ……あ、う、うん……」
なんとなく、夢心地。こうも違う顔を見せられると、自分の足が地に着いていないんじゃないかなんて錯覚を覚えてしまう。でも、氷高はそういう人間だってことは、たしかに契が知っていること。
「いきましょう」と綺麗なほほえみを向けてきた氷高に。契は困ったように、ほんのりと顔を赤らめた。
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