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「今日は楽しかったですね、契さま」
「……ま、まあな」
夕食を食べ終わり、シャワーも浴びて、氷高は部屋で契の髪の毛を乾かしていた。契の後ろに座り、契の頭をなでるようにして髪を乾かしてやる。
これは、日課のようなものだ。契の髪を乾かすのは、氷高の役目。でも、今日のはいつもと違うような気がした。契は、さわさわと絶妙な手つきで髪を触られながら、そう思う。
今日は、髪を乾かし終えたら氷高とはおやすみをしてしまうのだろうか。それがいつもは当たり前なのに、なんだかそれを寂しいと思ってしまう。
……キス、したんだし。その先があっても、おかしくない……よな? なんて。そんなことを頭に浮かべてしまって。
「……氷高。あの……このあと、何するの?」
「私ですか? 今日の仕事はもうないので、私も寝る準備にはいろうかと。最近は新しい本を買ったので、それをちょっとだけ読んでから寝ることにしています」
「そっか……」
いや、何もないなら何もないでいい。いい、んだけど……どうにかして引き留めたい。キスのことを思い出すと、胸がどきどきしてきて、そしてこの前突き上げられた体の奥のほうがじんじんしてきて……なんだか、切なくなる。
……ってなに俺は、エッチなことを考えているんだろう。このまえうっかり抱かれてしまったことなんて、黒歴史のはずなのに。キスだって、事故みたいなものだ。再びあっていいことではなくて、俺だってやりたくなくて……なのに。なのに。
「ちゃんと乾きましたね、契さま」
「……うん」
「それでは、お布団に向かいましょうか、契さま。今日は疲れたでしょう?」
「えっ……」
髪の毛を乾かし終えた氷高が、ドライヤーを片づける。そして、この部屋をすぐにでも出られるように準備を整えると、契をベッドまで誘導しようとした。
その声色は、明らかに「おやすみ」の色。もうこれ以上手を出してくることは、ないだろう。
……なんで。あんなに変態のくせに、デートした日に手を出してこないんだ。あんな触れるだけのキスをされて、こっちはもうずっと熱いというのに。
「ま、待てよ……!」
「?」
「ま、まだ寝たくない……氷高、その……もうちょっと……」
……俺は、何を考えているんだろう。何で、こんな変態執事を引き留めたりしたんだろう。
自分自身のことがわからない。自分の行動の意味がわからない。これではまるで、「夜通し一緒にいてください」なんて言っているみたいじゃないか。「ベッドの上で一晩中側にいて」なんて、そんなふうに誘っているみたい……。
ばか。ばかばか。ばかばかばかばか! ありえない、俺がそんなことを考えるなんてありえない。ご主人さまが執事に抱かれるなんて、あっていいいはずがない。何を考えているんだ、俺――
「……契さま。では、もうひとつ「練習」をしましょうか」
「……え?」
「私の部屋に来ませんか? 契さま」
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