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「お疲れさまです、契さま」
「……ん」
放課後になって、契はいつものように校門の前で俺を待っていた氷高のもとへゆく。氷高はいつもと変わらず契を迎え入れたのだが……契は、なんだか違和感を覚えた。氷高にではない。自分に、である。
氷高を見ると、もやっとする。心のなかが、ざわざわ。氷高の考えていることが、全くわからないのだ。「好き」と言ってくるわりには、こうして恭しく接してくるし。襲ってくるのも……あのデートのようなことをした時以来、まったくないし。
意識しているのが自分だけなのかな、と思うと、どうにも納得がいかないのだ。
「契さま、そういえば今日はお屋敷にお客様がおいでですよ」
「……俺の?」
「いえ……真琴さま(契の母)のお客様です。どうなさいますか? 結構大人数でいらっしゃっているので、少し騒々しいかもしれません。もしも契さまがかち合いたくないのであれば、どこか寄り道でもしましょうか」
「……え、いや……いいよ。帰る。部屋に籠もっているし、気にならないだろ」
たしかに、母の客とばったり合ってしまうのもめんどくさい。がやがやと騒がしい屋敷は落ち着かないかもしれない。けれど、契は「寄り道」をしたくなくて、そのまま屋敷に帰ることにした。
「寄り道」がいやというよりは……氷高と二人きりでいる時間が苦痛、というか。
「契さま……」
「いいから車出せ。命令聞けよ、執事だろ」
そんな、契の気持ちが態度に出てしまったからだろうか。氷高は少し寂しそうな顔をして、発進を渋っていた。契はそんな氷高の表情をみて、舌打ちをしそうになる。
……俺にこんなもやもやをさせているおまえが悪いんだろ。おまえほんと何がしたいんだよ。
契がぶすっとしながら、車窓に頬を寄せる。反射して映る氷高の横顔に、ちょっとだけどきりとする。
……また、この綺麗な顔が俺だけに熱を持つところをみたいけど。氷高にそんなことを期待するだけ、無駄かもしれない。
いい加減、このもやもやと取り払いたい。氷高のことをムカつく、嫌いだって思えればきっとどうでもよくなるはずなのに、それができない。よけいに、もやもやする。契のイライラは、募るばかりだった。
「あの、契さま」
「はあ? なにか?」
しかし、氷高はそんな契に話しかけてくる。
ぷちん、と何かが切れそうになって、少しだけ声を荒げて氷高をにらみつければ。氷高は、そんな契の怒りなど知らないといったけろっとした顔で言う。
「真琴さまのお客様、というのは……篠田莉一という俳優です。大丈夫ですか? ばったりと会ってしまっても」
「……え、……ええっ!?」
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