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 屋敷を出ると、契は莉一に手を引かれて彼の車に乗せられた。彼の車は、白い外車。この辺の高級住宅街にはとけ込むだろうが、街に出れば確実に目立つような立派な車だった。  契は慣れない車に乗せられて、なかなか落ち着くことができない。普段氷高の横に座っているときとは、全然雰囲気が違う。まず、おしゃれで今風な洋楽がかかっている。車内の匂いも、華やかなもの。そしてなにより慣れないのが、運転している莉一の手が、手袋をつけている氷高とは違って素肌なこと。ハンドルを動かすたびに、莉一の手の甲の筋がくっと動くのは、なんというか目のやり場に困ってしまった。 「ねえ、契くん」 「は、はい」  妙に緊張して、固まっていたから。不意に声をかけられて、契はびくっと肩を跳ねさせてしまった。そんな風にあからさまに意識している契を見て、莉一はふふ、と苦笑する。 「契くん、好きな人いないの?」 「へえっ!?」  莉一の口から出てきたのは、契が全く予期していなかった問。いきなりのそれに、契は素っ頓狂な声をあげてしまう。  ……好きな人。好きな人、とは。恋をしている人はいるかという質問だ。  色恋沙汰に疎い契でも、さすがにその質問の意味は理解できた。なんとか理解して、そして莉一からの初めての質問にちゃんと答えようと契は自分の頭に問いかける。「好きな人は、誰?」と。いや、いるわけないだろう、そんなもの。そう、問う前に答えは出していたけれど。  しかし。  契の頭のなかに、もや、と一人の男の顔が浮かぶ。 「執事さんとか」 「んんっ!?」  浮かんだ男を――なぜか、莉一が言った。  契はびっくりしてまたとんでもない声をあげてしまう。無意識に口に出ていたか? この人はエスパーなのか? いや、まて――別に、俺はあいつを好きなんかじゃない。  なぜか頭の中を当てられてしまい混乱した契であったが、即座にその答えは否定した。ぶるぶると頭を振って、きっと眉をひそめてみせる。 「べつにっ……氷高のことなんて、なんとも思ってないです。好きな人も、いないです」 「ふうん。じゃあ、これから恋をするご予定は?」 「ええー……な、ないんじゃないですか、ねー……」 「僕としてみるのはどうだろう」 「へっ?」  返ってきたのは、これまた予想外の言葉。  契がはっと瞠目して顔を赤くしたとき、丁度信号が赤に変わる。莉一は優雅に扉に肘をかけ頬杖をつき、ふっとほほえみながら契を見つめた。車窓から差し込む夜の光が、莉一の頬を照らしている。 「君にドラマよりもドラマティックな恋を教えてあげる。……なんてね」

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