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第五幕

「契さま。モーニングコーヒーをお淹れしましたよ」 「ん……ありがとう」  爽やかな、日曜の朝。平日と変わらず早起きをした契が大広間へ行けば、早速朝食が用意された。英国王室御用達のコーヒーカップに、香り高いブラックコーヒー。ミルクをいれるかどうかはその日の気分次第だが、今日はたっぷりといれておきたい。シルバーのミルクポットから注がれるミルクとコーヒーが交わっていき、今日のモーニングコーヒーが完成する。  契はそれに口をつけながら、ぼんやりと広いテーブルを見つめていた。いつもなら、絃がいて、そして日によっては真琴もいて。でも、今日は一人だけの食卓。広いテーブルで一人でコーヒーを飲むのは優雅だが、ちょっとだけ、寂しい。 「――ドイツは今……丁度、夜ですね」 「……ああ」  瞳に、睫毛の影がかかる。  そんな契を静かに見つめているのは――酒井だ。氷高ではない、代理の執事。 「酒井さん……コーヒー淹れるの、すごく上手だね」 「本当ですか?」 「うん。氷高がさ、……なんでも完璧なくせに、コーヒー淹れるのはちょっと下手なんだよね。いや、他の素人に比べれば断然上手だけど」 「――……」  酒井は、絃の世話役をしているというだけあって、何もかもが完璧だった。彼が今の自分の執事であるということに、契は何一つ不満を持っていない。けれど―― 「契さま。大丈夫です。氷高さんなら、二週間したら、戻ってきますからね」  ――氷高が傍にいない。それは、契にとって何よりの違和感だった。

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