41 / 91
第五幕
「契さま。モーニングコーヒーをお淹れしましたよ」
「ん……ありがとう」
爽やかな、日曜の朝。平日と変わらず早起きをした契が大広間へ行けば、早速朝食が用意された。英国王室御用達のコーヒーカップに、香り高いブラックコーヒー。ミルクをいれるかどうかはその日の気分次第だが、今日はたっぷりといれておきたい。シルバーのミルクポットから注がれるミルクとコーヒーが交わっていき、今日のモーニングコーヒーが完成する。
契はそれに口をつけながら、ぼんやりと広いテーブルを見つめていた。いつもなら、絃がいて、そして日によっては真琴もいて。でも、今日は一人だけの食卓。広いテーブルで一人でコーヒーを飲むのは優雅だが、ちょっとだけ、寂しい。
「――ドイツは今……丁度、夜ですね」
「……ああ」
瞳に、睫毛の影がかかる。
そんな契を静かに見つめているのは――酒井だ。氷高ではない、代理の執事。
「酒井さん……コーヒー淹れるの、すごく上手だね」
「本当ですか?」
「うん。氷高がさ、……なんでも完璧なくせに、コーヒー淹れるのはちょっと下手なんだよね。いや、他の素人に比べれば断然上手だけど」
「――……」
酒井は、絃の世話役をしているというだけあって、何もかもが完璧だった。彼が今の自分の執事であるということに、契は何一つ不満を持っていない。けれど――
「契さま。大丈夫です。氷高さんなら、二週間したら、戻ってきますからね」
――氷高が傍にいない。それは、契にとって何よりの違和感だった。
ともだちにシェアしよう!