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閑話休題

「……氷高。マンネリって言葉知ってるか」 「……は?」 「ずっと同じ調子でいると、どんなに仲のいいカップルも「飽き」がでてきて破局するらしいんだ……」 「また、ご学友からそういうことを聞いたんですね」 「……だから、俺もおまえとちょっと変わったことしないといけない……ってことだよな」 「……はあ」  突拍子もないことを言い出した契を、氷高は黙って見つめる。いつだったか、クラスの友人にAVを押し付けられ馬鹿正直にそれを観ようとしていた契を思い出し、氷高は「またか」とため息をつきたくなった。  契は箱入りが過ぎて、色事があまりわからない。だから、押し付けられた知識をそのまま呑み込んでしまうきらいがある。まだ特別おかしなことを教え込まれていないからいいものの、そのうち契に悪影響を及ぼすようなことを教えてくる者がいたらと考えると、この事態はあまり喜ばしいことには思えない。  ……そもそも、今回、契が言ってきたことの意味が、氷高にはあまり理解できなかった。だって――マンネリもなにも、二人は付き合っていないのだから。 「何か、いいアイデアない?」 「えっ、私に聞くんですか?」 「だって、俺そういうことよくわからないし……氷高のほうが詳しいかなって」 「……。まあ――そうですね。ちょっと変わったセックスするのはどうですか、例えば目隠」 「あっ! いいこと思いついたぞ、氷高!」 「……」  何を思って契がマンネリの話題を振ってきたのか、氷高には理解できなかったが。せっかくだから、このチャンスにやりたいことをやってやろうと提案をした――が、それは契の耳に届かなかったらしい。自分から聞いてきたくせに、と文句を言いたくなった氷高であったが、契の自信満々なふんぞり返った顔を見ると、やはり可愛いな、なんて思ってしまう。 「立場を交換するのはどうだ、氷高。俺が執事で、おまえがご主人様な!」

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