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「ぁんっ……あっ、あぁ……ご主人、さま……」
「腰が揺れている。はしたない」
「あぁっ……ごめんなさい…… 」
ちゅる、となかに指が入ってきて、なかを掻き回してくる。響く水音は、映画から出ているものではなく、紛れもなく契のソコから発せられていた。
くちゅ、くちゅ、ちゅぷ……と淫らな音が契の耳を掠める。こうして氷高の腕の中で蕩けることしかできない、この倒錯的な状況がたまらない。いつも自分に跪いている彼に支配されているのが、……たまらない。
「あ、……」
くちゅくちゅと指の抜き差しが激しくなってきて、契の頭の中がとろとろになっていると、映像の中の二人がキスをした。しかし、氷高は何もしてこない。すっかり映像の中のヒロインと自分を重ねていた契は、無性に唇に寂しさを感じで、思わず振り返る。
「ん?」
「……ひだか、」
「様は?」
「ひだか、さま……」
「どうしたの? 契 」
今の今まで、映像の中と同じことをしてくれていたのに、キスだけはしてくれない。もどかしくて、契は唇をはくはくと動かしたが、氷高はふっと微笑むだけ。
「ぁ、う」
ぐ、と奥のいいところを押し込まれて、契の体が跳ね上がった。それと同時に、氷高がこつ、と額を合わせてくる。目を細め、ひとつ瞬いて、その表情で契は悟った。おねだりをしなければ、キスはしてくれない。いつもの奉仕をしてくれる氷高ではないのだ。彼は、ご主人さまだから。
いつもなら、意地をはって言えないが。なぜか、今は頭の中が痺れて、その意地すらも息を潜めている。契は自らキスをねだる恥ずかしさに瞳を潤ませて、そっと氷高の胸に手を添えて、吐息と共に乞う。
「キス……してください」
氷高の瞳の奥に、劣情が滲む。そして、その唇が弧を描いたかと思うと、するりと頭に手を添えられて、鮮やかに唇を奪われた。
「ん……ん、」
氷高の瞳から目を離せなくて、目を閉じることができない。瞳から熱が注ぎ込まれてくるようで、頭が真っ白になった。
映画から流れてくる淫らな声も、なかを掻き回してくる氷高の指も、そして暗闇の中にゆらめく氷高の 瞳に灯る炎も……契を狂わせるのには十分すぎるもの。契は堪えることなどできずに、押し上げられるように、どんどん昇りつめていく。
「んっ、……ぅ、ん、ん……ぅん」
氷高に舌を吸われ、ぐーっと腰が浮き上がってゆく。このまま、イカされてしまう。氷高に、氷高の思うがままにイカされる。
氷高に、支配される。
「あっ……」
もう少しで、イってしまう。その寸前で、氷高は契を解放した。唇を離し、秘部から指をぬいて、かくんと力の抜けた契の体を抱きとめるようにソファへ押し倒す。
「ぅ、……」
ギリギリのところで寸止めされて、契は体のなかに留まる熱に浮かされる。じんじんと、全身が熱い。逃すことのできなかった熱は、縋るところを求めていた。
契は無意識に氷高にぎゅっと抱き付いて、はーはーと熱を逃がすように息を吐く。息を吸えば氷高の匂いがふわりと鼻腔に滑り込んできて、ずくんと下腹部が熱くなる。
「気持ちよかった?」
「……、最後まで、しないんですか……?」
「……したかったの? 契は俺に抱かれたかった?」
息のかかる距離で、氷高は契に話しかけてくる。落ち着いた声色で話しているのに瞳に熱を揺蕩わせる氷高に、契はドキドキしてしまってを赤らめた。氷高からかけられた問に答えるにも顔が熱くて、上手く言葉が紡げない。
俯き、契が黙っていると、氷高がくすくすと笑った。そして、瞼にキスを落とすと、優しく目を細めた。
「夜にいっぱいしてあげる」
「……、はい、」
氷高がいつもよりも、大人っぽい。この氷高が、本来の彼なのだろうか。いつもの氷高もいいが、この氷高もいいかもなんて、契はそんなことを考える。
けれど、見つめてくる視線の甘ったるさとか、触れ方が相変わらず優しすぎるところとか、全然変わらないところもある。言葉遣いが変わっても、根本的なところは全然変わらないのだと思うと、言葉にできないような愛おしさが溢れてきて、契は氷高の胸でこっそりと微笑んだ。
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