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第七幕

「あっ……」  ちゅ、ちゅ、と艶めかしい音が部屋に響いていた。そしてその音に重なる、シーツのこすれる音。 「ひだか……」 「契さま……綺麗です」 「ん、……あんっ……」  ベッドの上に押し倒され、契は氷高に体を貪られていた。全身にキスをされ、体の隅々まで氷高の熱を植え付けられる。  氷高にキスをされるたび、契は悩ましく熱い吐息を唇からこぼしていた。瞳を熱に浮かせて、虚空を見つめ、腰が浮き上がるようなふわふわとした快楽はまるで白昼夢の中にいるかのようだった。  氷高はじりじりとした熱視線を契の体に浴びせながら、唇をその柔肌に這わせる。ほんの少し、乱れたその前髪にゆるく引っ掻かれるとくすぐったくて、契は時折唇を噛みながら、その愛撫に悶えていた。 「あぁ……」  氷高が契の後頭部を掴む。そして、首筋に口付けをした。  噛まれるかもしれない――そう感じた契は、ふっと瞼を閉じ、くっと首筋を伸ばして氷高にそこを委ねる。彼にならば……噛まれたい、そう思った。  彼は自分に全てを捧げてくれる、それならこっちだって全部捧げたい。その想いが、ここ最近の契のなかでぐるぐると巡っていた。それはそう、セックスのときも。恥ずかしいし、慣れないし、セックスへの抵抗がないわけではないが。それでも、激しく求めてくる氷高に応えようと、契は必死だった。  だから、彼に噛まれたい。彼に痕を残されたい。彼に心も、そして体も捧げるのだとその想いを形として表したい。契はそう思ったのだ。氷高に首を噛まれる瞬間――恐怖よりも、ゾクゾクとした興奮が勝っていた。 「……ひだか?」 「あっ……いえ、すみません、契さま」  しかし。  氷高は契の首を噛むことなく、契を解放してしまった。期待してしまっていた契は拍子抜けしてしまって、思わずぽかんとした顔で氷高を見つめてしまう。 「いや、……そんな目で見ないでください……違うんです、あの……せ、契さま。明日撮影でしょう。体に痕を残しては、いけませんよ」 「……あ」  ――氷高に言われて、ハッと気づく。  明日は、「撮影」だ。  契の初めての、「仕事」なのである。

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