3 / 10

第3話

暗く湿った洞窟の中ほどで、百合根は焚き火を起こした。 チラチラと揺らめく炎の揺らぎがテラサキの横顔を照らし出す。 しばらく見惚れるように見つめていたシラキだが、ふと自分の上着を脱ぎテラサキの肩にかけた。 薄い布を羽織らされているだけのテラサキが微かに震えていたから。 一枚布を頭が通るだけ穴を開けられた感じで、両脇は雑に縫いとめられ、所々素肌が露わになっている。 むき出しの細い足にも、折れそうな腕にも無数の鞭に打たれたミミズ腫れが見えた。 いつもの海賊服姿からは想像できないほど、弱々しく、儚い。 不意に掛けられた上着を振り返ることも、シラキを見やることもせずテラサキはふっと笑った。 「馬鹿なことをしたな、中尉」 シラキはテラサキと同じように炎を見つめた。 「馬鹿なことだとは思ってません。僕は自分の信念に従っただけです」 「海賊を助けることがか?」 「海賊でも人間です。奴隷のように扱われる謂れはありません」 「…だが、昼間現れた時に、あの組織を拿捕するつもりだったんだろう?ならば放っておいても…」 「貴方は助かりません」 「………」 「海軍は貴方を見捨てる決断をしました。僕はそれが納得できず、単身乗り込んできたんです」 ゆっくりとシラキを振り向くテラサキに、シラキは少し視線を合わせただけで、俯いた。 「あのまま、繋がれたままのあなたに手を出すなと言われました。あなたを助けに仲間が近くまで来ています。貴方を餌に彼らも捕まえる手筈でした」 こっそりとミズタから聞かされた情報。 テラサキの仲間が近付いている。 けれど彼らにも海軍は手出ししていない。 じっと機を待っているようだ、とも、彼らには関心がなさそうだとも、言っていた。 普通に考えれば、救出に来た彼らもろとも捕獲する作戦、と思える。 けれど、何かシラキには引っかかっていた。 そもそもどうやってテラサキを捉えたのか。 あんなに海軍も、自分も追いかけ続けているのに。 こんなにあっさりと。 いつも仲間に囲まれているテラサキのみを、どうやって。 テラサキは頭が切れる。 仲間の一人であるヤマサトも、少女ながらかなりの切れ者と聞く。 武闘派のムラサキ、変に隙のないアイカワ、詳細は判明していないが何か特殊な能力を持つと言われているユカリ。 その彼らからどうやって、船長であるテラサキを奪ったのか。 シラキの疑問に気付かないのか、テラサキはふっと笑う。 「…それが海軍のやり方だ。犯罪者を捕まえる作戦だろう?」 「そんな卑劣な手段など必要ありません。僕は必ず貴方を捕まえる」 そう答えたシラキを見ながら、テラサキが楽しそうに笑った。 「海軍組織に似合わないな、中尉は」 「…よく言われます…」 「正義漢の塊なのに、海軍という組織に向かない。残念だ」 「…心にもないことを…」 「心からそう思っている」 思わず振り向いたシラキに、テラサキがふわりと笑う。 「命を助けられたな、中尉。まさかこの俺が海軍将校に助けられる日が来るとは思わなかったが」 「…結果的に助けたことになっただけです…」 苦しい言い訳だった。 テラサキはニヤリと笑うと、百合根の肩を掴み、その足に跨った。 膝で立ち、シラキの首に腕を回すと、妖しい笑みを浮かべる。 「褒美をやる」 「え」 それからゆっくりと合わされる唇。 一度触れると、離れて、シラキの反応を待つように口元を緩ませたまま、見下ろしてくる。 もう一度、今度はシラキの唇を舐め、下唇を食まれた。 ぎゅっと目を閉じたシラキは何かに耐えるように、テラサキの体に手を掛け押しもどそうとする。 テラサキはそれを許さず、足をシラキの腰に絡ませ、さらに体を押し付けてきた。 唇をなぞるように舐めていた舌が割り入ってくると、シラキはテラサキの身体を抱き返し、テラサキの頭を後ろから押さえつけ、舌を絡めた。 テラサキの舌を追いかけ絡めてくるシラキを薄く開いた目で確認すると、テラサキは楽しそうに口元を歪めシラキの背に手を回した。シラキは眉を寄せ、何かに耐えるように、それでも深く唇を合わせた。 深く、何度も角度を変えながら長く口付けを交わしていると、テラサキはシラキの腕を取り、自らの後ろへ導く。 少し驚いたシラキが目を開けると、同じように目を開け、それでも口端を緩めるテラサキと目があった。 テラサキの手はシラキの下肢へ、服を乱し、素肌を探りながら降りていく。 テラサキの手に導かれたのは、通常、こんな行為では使わない場所。 そのままテラサキの指とともに侵入させられた。 「ん、ふっ」 口付けを止めないテラサキから吐息が漏れる。 色のある吐息。 意外と柔らかいその場所は、二人の指でさらに解れていく。 テラサキのもう片方の手は、シラキのズボンの中に入り込み、少し芯を持ち始めたそれを包み込み摩った。 「んん」 どちらともなく口付けが激しくなる。 テラサキはシラキの指をもう一本導くと、離れていった。 そして擦りつけるように腰が揺れる。 ぞくぞくとシラキの背を快感が走る。 テラサキが急に発し始めた色香に、完全に惑わされ、興奮していた。 不意に離れたテラサキが膝をついて腰を持ち上げる。 ずるりとテラサキからシラキの指が抜けた。 その感覚にテラサキが身を震わせる。 そしてペロリと上唇を舐めると、自分で育てたシラキの屹立に腰を落とした。 「ああああ」 ゆっくりと飲み込まれていく。 熱く、吸い付くような内部の熱にシラキは必死に耐えた。 シラキを全て飲み込むと、シラキと目を合わせながら、ちゅっと音を立てて口付けをする。 そしてシラキの肩に手を乗せ、腰を動かし始めた。 「あ、あ、んん、あ」 動きに合わせテラサキから漏れてくる喘ぎが、シラキを揺さぶる。 絡みつくような内壁がシラキをさらに快感へと追い上げた。 シラキの上で淫らに腰を振るテラサキの顔も恍惚としていて、快感に囚われているのがわかる。 シラキはテラサキの腰を掴むと、下から突き上げた。 「ああああ、いい、あああ、ちゅ、うい」 倒れんばかりに背を反らせ、テラサキはそれでも腰を揺らす。 「ん、いい、ああ、も、っとだ、中尉」 テラサキはシラキを熱く潤んだ瞳で見下ろしながら、煽ってくる。 煽られるままに突き上げて。 「ああっ」 一際高い喘ぎを漏らしたテラサキがびくんと跳ね達すると、内部がシラキを搾り取るように収縮し、耐えきれずシラキも後を追った。 弛緩して倒れてくるテラサキを抱きしめて、シラキも深く息をして呼吸を整える。 急激に冷めていく頭にいくつかの疑問が浮かんでくる。 なぜ、こうなったのか。 そしてなぜ、こんなにも嫌悪もなく快感だけを追えたのか。 なぜ、こうなることが自然に思えるのか。 褒美だと言って、なぜテラサキは身体を差し出したのか。 突然腕の中のテラサキが堪えるように笑い始めたので、シラキは覗き込んだ。 シラキの肩に額を乗せて、少しだけ振り向いたテラサキと視線が合う。 「どうしたんですか」 「いや、想像以上だった。中尉」 「…褒められてるんですかね…」 くっくっ、と笑い声を漏らし、シラキの頭を引き寄せると口付けを交わす。 「もちろんだ」 「…それは、どうも…」 テラサキの上機嫌さを不思議に思いながらも、そのままシラキの上着を布団代わりに抱き合って眠った。 翌朝、まだ薄暗く靄も立ち込める中、2人は洞窟を後にし反対側の港を目指した。 港にはちらほらと海軍の姿があった。 「もう、手配されてる?」 建物の陰に二人で身を潜め、港を眺めた。 「さあな、早すぎる気もするが」 奴隷商人の組織の者ならまだしも、海軍の耳に入るのは早すぎる。 テラサキ脱走後、海軍が押し入ったならありえるが。 そもそも現在、救出作戦中ではないのか。 こんなに早く作戦が終了するとは思えない。 救出作戦自体、何かの布石だったのか。 ミズタはそんなことは言っていなかったし、利用はしても騙すことはないはず。 シラキの上着を羽織ったテラサキが、自分を見下ろす。 「…この格好は間違いなく人目を引く…」 「どうします?」 シラキはテラサキを見下ろした。 「俺の船はここには来ないな」 「え、じゃあ」 「東側には何がある」 「何も、ないですよ。崖があるだけで」 「行くぞ」 踵を返したテラサキにシラキは続いた。

ともだちにシェアしよう!