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第9話
小さいけれど緑に溢れ、でも山ばかり。人が住む環境ではなさそうだ。
川を登れるだけ登った先で、船は停められた。
荷物を下ろすのを手伝うと、そこからさらに奥へと入っていく。
シラキは途中で海の方を振り返った。
ここからは見えないが。
「こんな所に隠れてたんですね、見つからないはずだ」
海軍だった頃、当然この近辺も探したはずなのに。
シラキの呟きに、アイカワが苦笑いした。
「我々も静かに過ごしたいんですよ、たまにはね」
「シラキー、見えてきたよ」
ヤマサトに呼ばれて駆け寄ると、ひっそりと山と木々に囲まれていくつかの小屋が立ち並んでいるのが見えた。
「すごい…」
近付いて見ると、結構大規模だった。
小屋に見えるのはそれぞれの部屋のようだった。
それを繋げるように屋根付きのフロアがあり、椅子やテーブルも置かれている。
「ムラサキくん、お風呂に入りたいわ」
ユカリが言うと、ムラサキは頷いた。
「シラキ、手伝って」
「ええ」
「ヤマサトちゃん、水を汲みに行きましょう」
「うん」
近くには泉があり、そこから汲んできた水を風呂脇の釜で沸かし、風呂の中に流し入れる仕組みになっていた。
湯が沸く間に食事をして、女性陣、テラサキ、シラキの順に風呂を使った。
風呂から出てきたシラキがフロアに行くと、テラサキが一人でいた。
アイカワ達は風呂を使いに行ったようだ。
木製の柵に腰を乗せたテラサキは酒瓶片手に、夜空を見上げていた。
時折、髪を攫っていく風は程よく冷たくて心地いい。
シラキが静かに近づくと、ちらりと一瞥し、また視線を戻した。
「僕は貴方の性奴隷ですか」
シラキの言葉に一瞬驚いたように振り向いたが、少し眉を寄せた。
「…なぜそう思う」
「………」
シラキは答えない。
「…それがさっきイけなかった理由か…」
「………」
「性奴隷にした覚えはない」
「…………」
納得できないように、シラキは口を閉ざす。
テラサキは溜息を吐き、また空を見上げた。
「…初めて会った時を覚えているか…」
「覚えています」
「サカエダの傘下の海賊の応援で一つの島を襲った。そこに居合わせたのがアンタだった」
「…覚えています…」
シラキがそう答えると、テラサキは苦笑した。
「突然現れた真新しい将校服に身を包んだ若造が、真っ直ぐ俺に剣を突き付けた」
「…昇進したばかりで、仲間があの島で祝ってくれてました。騒ぎを聞きつけて、仲間が止めるのも聞かず飛び出しました…」
「真っ直ぐな瞳に、己の信じる正義を浮かべていた。そして、俺に説教をしたな」
テラサキは楽しそうに笑う。
「…………」
「俺の正義はあの瞳に打ち砕かれた」
「え」
「あの日、あの瞬間まで、俺の正義は略奪だった。そう、教わり育った」
「……それは」
「間違っている、そうだな」
「ええ。……じゃあなぜ、続けているんですか、こんなこと。貴方ほど聡明な人がなぜ」
「…他に生き抜く術がない。海賊として育ち、生きてきた以上、それ以外に生きるべき道を知らない。誰ももう、それ以外を許さないだろう」
「…僕が許しても、ですか…」
シラキが言うと、テラサキは困ったように苦笑する。
「今のアンタも、俺と大差ない」
シラキは俯き、唇を噛む。
「そうですね、僕はもう、処刑された人間ですから。でも…」
「分かっている。アンタの瞳は今も変わらない。…アンタはこんなところにいるべき人間じゃない。だが、戻してもやれない。…また、処刑されるだけだ…」
「……………」
「その瞳に惹かれた」
「え」
テラサキは自嘲気味に笑う。
「洞窟で間近に見て、ますます引き込まれた。いつも説教してる声か、叫んでる声しか聞いたことがなかったからな、あんなに優しい声だとも知らなかった。アンタが女を抱く時はきっと優しく、甘く囁くんだろう、そう思った。だから俺を抱かせた」
「………」
「俺をどんな風に抱くのか知りたかった」
テラサキは酒を一口口に含み、ゆっくりと飲み込んだ。
「……アンタは奴隷じゃない。自分の意思で決めていい。俺の部屋はこの上だが、向こうでアイカワたちと一緒に寝てもいい。好きにしろ」
そう言いながら、シラキの脇を通り過ぎ、石段を登っていった。
残された百合根は、立ち尽くした。
シラキが部屋の扉を開けて中に入ると、窓に添えられたベンチにテラサキが座りこちらを見ていた。シラキを見て微笑む。
「…貴方はずるい…」
「そうかもな」
「僕が来ると、分かっててあんな言い方をしたんですね」
「分かっていたわけじゃない。ちゃんと選ばせたかっただけだ。奴隷だと誤解しているようだからな。アンタの意思を尊重できることを証明しただけだ」
酒瓶はベッド脇のテーブルに置かれていた。
シラキはそれを手にとって、一口飲んだ。
強い酒に勇気づけられたように話し出す。
「ひとつ教えて欲しいことがあるんです」
「なんだ」
「僕はずっと…。貴方に惹かれてた。最初に会った時、すり抜けるように逃げられてからずっと。この手に捕まえたくて、必死に追いかけてきた。けれど、捕まえて牢獄に入れたかったわけでも、処刑したかったわけでもない。ただ捕まえたかったんです。…洞窟で、褒美をやる、と言われた時僕の邪な心が貴方に見透かされたと思いました。あなたをこの腕に抱いて、忘れられず檻の中では何度も思い出していたんです。処刑台で貴方を見た時、もう、死んで夢でも見てるのかと思いました。…なぜ助けに来てくれたんですか」
「…俺のモノにするためだ…」
「…………」
「アンタの処刑を聞きつけたのはユカリだった。瞬時にアンタを手に入れるチャンスだと思った。アンタが海軍でいる以上、手が出せなかったからな。アンタは根っからの海軍将校だ。俺もその方がアンタらしいと思う。だが俺のところに落ちてくるのならば逃がさない。そう思った」
シラキは苦笑いした。
「…そんな言葉ではなくて、もっと普通に言ってください」
「…………」
シラキはテラサキに歩み寄った。
「僕は貴方が好きです。愛してます」
テラサキは困ったように頭を掻いた。
「…貴方はどうですか。…僕を愛してくれますか」
目の前に立ったシラキを少し見上げてそれからまた頭を掻く。
「…そういう言葉は、…言いにくい」
シラキは吹き出すように笑った。
「言ってください」
テラサキはシラキから顔を背けて、小さく言う。
「………好きだ。愛して、いる」
途端、シラキに顎を掴まれ口付けをされた。
深く口付けてから離れたシラキが、微笑んだ。
テラサキは少し頰が高揚している。
酒のせいか、先程のセリフのせいか、はたまた今の口付けのせいかわからなかったが。
「貴方を愛させてください」
シラキはテラサキの手を引いた。
引かれるままテラサキは素直についてくる。
それからベッドに座ったシラキの前に立たされた。
シラキを見下ろしたテラサキがふっと笑った。
「積極的なアンタは、いいな」
「そうですか」
シラキはテラサキの服の下に手を滑り込ませた。
「最初の、洞窟以来だろう」
「…あれも、微妙に貴方に流されただけのようでしたけど…」
「…そう、だな。違うのか」
「自分で試してください」
「わかった」
そしてシラキに口付けをしてくる。
そのテラサキの体を受け止めて、ベッドに横になる。
口付けをしながら態勢を入れ替えると、シラキはさっき来たばかりのシャツを脱いだ。
テラサキはその露わになった肌に触れてくる。
シラキはテラサキのシャツのボタンを外しながら、少しずつ露わになる肌に口付けをしていく。すべてのボタンが外れると、撫でるようにしてシャツをはだけさせた。
胸にキスを落としながら、ズボンに手をかけ脱がせると、露わになったテラサキの性器はすでに立ち上がり、しっとり濡れていた。
それを優しく手で包み込むと、テラサキは少し身じろいだ。
「ん、ん」
胸の突起を啄むように弄んで、吸い上げると腰を押し付けてくる。
「も、いい。早くしろ」
待ち切れないようにねだってくる。
「待って」
そのテラサキを抱きあげるようにして、枕の上に移動させて、ベッド脇に置いたままの酒瓶を取り、一口含む。
テラサキの足を大きく持ち上げて、奥の入口に手を添え広げ、そしてその中に口に含んだ酒を流し込んだ。
「ふあぁ、ん」
ピリピリとしみるような感覚に、テラサキの背がしなった。
シラキは指で内壁に塗りつける。
「んん、あ、つ」
染みるような感覚が熱に変わる。
「ふぁ、あん、は、やく」
昼間シラキを受け入れていたそこは簡単に緩み、シラキの指に絡みついてくる。
シラキがそこから口を離し、屹立したものを当てがると、快感の期待にテラサキのそこが思わずヒクついた。
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