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「じゃあ、波折先輩。また明日」
生徒会の活動が終わり、教室の扉の前で沙良は波折に挨拶をする。きっと睨みつけて早足で彼から離れようとしたところで……前から、人がやってくる。
「あ、淺羽先生!」
「ん、ああ……神藤君と……波折」
やってきたのは、淺羽だった。特別講師である彼が放課後の生徒会活動が終わる時間まで残っているというのは珍しい。こんなところで会えるとは思わず、沙良は飛びつくようにして彼に話しかける。
「淺羽先生、今日は遅いんですね!」
「明日の授業の準備をしていたんだ。神藤君は生徒会が終わったところ?」
「そうです! もう帰るところで」
「そうか。気をつけて帰れよ」
「はい! 淺羽先生、さようなら!」
沙良がにこにこと挨拶をして帰ってゆくと、淺羽は微笑ましそうに笑いながらその背中をみつめた。そして、沙良がみえなくなったところで、波折に向き直る。
「……神藤君。いい子そうだけど……なに? また突っぱねたの? 波折」
「……」
淺羽は波折に近づいていって、その顔を覗きこむ。波折はぎゅ、と唇を噛んで何も答えない。淺羽は困ったように笑って、そして波折の手をとった。
「これ、どうしたの」
「え……」
「絆創膏」
「あっ……えっと、神藤君にもらって」
「ふーん。優しい子じゃん。仲良くすれば?」
「……嫌です」
波折は手首の絆創膏を、もう片方の手で触れながら、呟く。
「……俺と親しくなったところで……どうせ、最後には悲しませる」
消え入りそうなその声は……震えている。淺羽は俯いた波折の頭をくしゃりと撫で、そして微笑んだ。
「……そんなことないよ」
ぽん、と波折の肩を叩いて、淺羽は去ってゆく。波折はしばらく、誰もいない廊下に立ち尽くしていた。
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