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*** ――――― ――― ―― 「けいちゃーん!」  教室をでたところで、少女が自分のもとにかけてくる。廊下ですれ違う生徒たちは皆振り返って少女に見惚れる――そんな美しい少女の名前は(なつめ)。鑓水の幼なじみである。  鑓水と棗は、家も近く幼少のころから親しかった。中学にあがってもその仲は変わることなく、一緒に登下校をする仲だった。鑓水は高嶺の花である棗に慕われていることで羨ましがられることが多かったが、鑓水は彼女に対して特別な感情を抱いてはいないし、可愛い女の子が寄ってくることなんてよくあることだったため気にしていなかった。 「けいちゃん、今日返されたテスト、どうだった?」 「満点」 「す、すごい! 私のクラスでも一番の子は92点だって先生言ってたのに」 「そうなんだ。棗は?」 「えっ……私は、えーっと、ふふふ」 「言えよ」 「……けいちゃんの半分!」 「ちゃんと勉強しろよアホかおまえ」 「いいの! 女の子は頭良くなくなって素敵な旦那さんと結婚すれば幸せになれるもん!」 「いまからそんなこと言ってるとろくな男みつけらんねえぞ」  棗が鑓水の腕に自らのものを絡めて歩けば、皆が注目してくる。棗も注目されているということは全く気にしていないようだ。目の前の鑓水のことで、頭がいっぱいだった。 「……けいちゃん、今日家にいっていい?」 「んー、いいよ」 「やったー!」  にこにこと笑う棗を、ちらりと鑓水は見下ろす。可愛いな、とは思うがやはりそれ以上の感情は湧いてこない。ただ大切な幼なじみであることには変わりなく、彼女と過ごす時間を鑓水は好いていた。

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