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家に帰ると、鑓水の母の暁子 が棗をもてなした。頻繁に家を訪れるせいか棗と暁子は仲がいい。暁子は美しく愛想のいい棗のことを大変気に入っており、「将来は慧太と結婚しなさい」なんて冗談をよく言っていた。
鑓水と棗が階段を登って部屋にいこうとしたときだ。鑓水の隣の部屋の扉が開く。薄暗い部屋のなかから、ちらりと目がこちらをみていた。目はじっと棗のことをみている。鑓水はその視線から棗を隠すようにして、彼女を自分の部屋に案内した。
部屋に入ると、二人でベッドの上に座る。ソファの類のものがないためベッドに座るしかないのだが、鑓水は棗のことをあまり女として意識していなかったため気にすることはなかった。
「けいちゃん」
「んー」
「私、ほんとうにけいちゃんと結婚できたら幸せだな」
「もっとマシな男いるだろー、俺なんかより」
「いないよ! 私けいちゃんよりかっこいい男の人みたことないもん!」
「おまえの世界ちっちぇえなー」
「はあー!? うるさいな、この!」
ごろんと鑓水が横になれば、棗も真似して鑓水の隣に横になる。棗がぎゅっと抱きついてきたから、鑓水はぽんぽんと彼女の頭を撫でてやった。棗は幸せそうに笑って、鑓水に擦り寄る。
そんなふうにとりとめのない話をして時間が過ぎてゆく――そんな日々を、二人は繰り返し、今までずっと一緒にいた。
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