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波折にアダルト動画についてきくとしたらやはり昼休みかなぁ、なんて考えているうちに沙良は学校に着いた。早朝となると相変わらず人影はまばらである。ぼんやりとしながら自分の教室に向かって歩いていたときである。
「……!」
向かい側に人影が。なんと今の今まで沙良の頭の中を支配していた人物・波折だ。方向的には自販機コーナーあたりにでも向かっているのだろうか、一人でこちらに向かってきている。まだ波折と話す心の準備ができていない沙良の頭はパニック状態に陥った。ここで捕まえてしまうか、今はやめておくか。昼まで待とうか、しかし待ったところでなにかいいことがあるのか。どうするべきか迷っているうちに、距離は縮まっていく。
「……あ」
波折が沙良の存在に気付く。目が合ってそろそろ擦れ違うといった瞬間――自分でも何を考えたのかはわからない。焦ってしまったのかもしれない。
「えっ、」
沙良は波折の手を掴む。そしてびっくりしたような顔を浮かべる波折を尻目に、すぐ近くにあった資料室に引っ張り込んでしまった。
「ちょ、ちょっと……なんだよいきなり」
「あっ……えっと、お、おはようございます」
当然ながら波折はわけがわからないと言った風に怒っている。沙良はやってしまった、と心の中で後悔した。しかし連れ込んでしまっては後戻りできない。迷っている暇はない、と単刀直入に、聞いてみる。
「あのー……聞きたいことがありまして」
「なんだ」
「……波折先輩って動画サイトにエロ動画投稿していたりします?」
……ひねりも何もない。聞いたあとで質問の仕方を間違えたか、と思った。少しずつ確信に迫るような聞き方のほうがよかったかもしれない。こんなふうに聞かれて誰が「はいしてます」なんて言うだろうか。
しかし波折は顔色も変えず、言ったのだ。
「……してたら何?」
「……エッ!?」
「用はそれだけ? もう行っていい?」
「ちょ、ちょっと!」
あんまりにも淡々と肯定されて、沙良は反応が遅れてしまった。波折はすでに鑓水にサイトのことを知られてしまっているため否定してもそのうちバレる、と思ったのと、沙良はチョコレートのこともすでに知っているためこのこともいずれ知るだろうと思っていたということがあってサイトのことを否定しなかったのだが……沙良はこうもあっさり波折が認めるとは思っておらず、驚いてしまった。驚きのあまり言いたかったことも吹っ飛んでしまう。
「な、なんでそんなことしてるんですか」
「……俺に聞かれても」
「……え?」
「だから、ご主人様がやってることだから俺に聞かれてもわからないって言ってんだよ」
「ご、ご主人様……えっと、その人とは一体どういう関係」
「サイトみたんならわかるだろ。俺はあの人の奴隷だよ」
「お、おお……」
ご主人様、とか、奴隷、とか。動画のなかでみるとあるあるくらいにしか思わなかった単語が、リアルで聞くとこうも違和感があるとは。波折の口からそんな言葉がぽんぽんとでてくるものだから沙良は目をひん剥きそうになった。
「ずっと小さいときからご主人様に俺は調教されていて、今もそれは続行中。もう俺はご主人様からは離れられないし、俺も離れる気はない。だからおまえがなんと言おうとああいうことをやめるつもりはない」
……ただ、驚きに徐々に慣れていくと、別の感情が湧いてくる。そして、朝から抱えていた想いが復活してくる。
――貴方のやっていることは、おかしい。そんな想いだ。まだ高校生の波折が、あんなふうに誰かに隷属してされるがままになって。身体はあの「ご主人様」の好きなように調教されきってしまっていて。そしてそれに本人が抵抗がないなんて。おかしい。どう考えても普通じゃない。
「……あの、やめてくださいよ、そういうこと」
「……やめないって言っただろ。沙良には関係ないし」
「あります! おおありですよ! 俺は波折先輩がす、好きだから! そうやって波折先輩がおかしなことをやっていると許せないんです! 波折先輩あなたは男子高生でしょ、普通の男子高生! あんなことやっていいわけがない!」
「……鬱陶しいな」
波折が顔をしかめて、沙良に背を向ける。沙良が慌てて波折の手を掴んだところで――扉に人影が映った。誰かが教室に入ってくる……そう悟った瞬間、思わず二人は教室の奥の方に逃げるようにして走ってゆく。資料室は普段生徒が入ることがない教室のため、教員に見られたりしたら面倒だ、と思ったのだった。
本棚やごちゃごちゃと置いてある物を避けて奥へ入って行く。入ってきた人物は色々と物を漁っては資料を確認して、という作業を繰り返していた。これはしばらく出ていけないなー、と思った沙良は波折にしか聞こえない小さな声で先ほどの話を続ける。
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