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「ただいまー」
波折と鑓水が家についたのは、10時近くとなってしまった。誰もいない部屋の中にむかって「ただいま」という波折が可愛い。靴を脱ぎながら、鑓水は波折を後ろから襲いたい衝動に駆られていた。でも、明日一日中波折のことを愛せるのだから、今はそんなに早急にならずともいいかな、と自制する。
靴を脱ぎ終わったところで、キスだけをした。鑓水の方から肩を掴んで唇を奪えば、波折がぴくんと反応してそれに応える。甘えるようにして体を擦り付けながら唇を押し付けてくる波折が可愛くて、鑓水はしばらく、しつこくキスをした。腰を抱いて、ちゅっ、ちゅっ、と何度も何度も。少しだけ瞼をあけて波折の顔を覗いてみれば、波折はとろんと顔を赤らめて気持ち良さそうだ。可愛いな~、なんて思って、鑓水はキスを深めてゆく。
「んっ……、」
そのとき、バイブレーターの音がする。波折はびくりと肩を震わせて、「ごめん」と言って鑓水から離れた。波折のスマートフォンが鳴っていたようだ。波折はポケットからスマートフォンを取り出して、鑓水に背を向けて電話にでる。
「……?」
鑓水はちらりと見えたスマートフォンの画面をみて、眉をひそめる。画面に表示されていた名前が、変だった。「.」とピリオドだけがうってあるというおかしな名前。明らかに普通の人ではない相手だ、と思ったところで波折の話し方を聞いて確信する。波折が、敬語を使っている。そしてその態度はどこか淑やかで。波折は自分や沙良のように特定の相手にしかそういった態度を見せないはずだった。……つまり、電話の相手は、
「ごめん、慧太。ちょっとだけ出てくる。すぐ戻ってくるから」
「……おう」
……「ご主人様」か。
波折が再び靴をはいて、部屋を出て行く。鑓水は何も言わずに送り出したが……内心穏やかではなかった。波折を尾行するか? とも思ったが、あからさまにでていって「ご主人様」とやらにバレたら面倒くさそうだ。
「むっかつく……」
「ご主人様」から無理矢理波折を引き離すつもりはないけれど。それでも、やっぱり波折を支配する「ご主人様」には腹が立った。
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