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***  お風呂をあがると、二人はリビングで休憩をしていた。少し長く浸かりすぎたかもしれない。のぼせるとまではいかないが、ぼーっとしてしまう。  沙良はなんとなくやってみたいなあ、と思っていたことをやってみる。波折の髪の毛を乾かしてあげること。ドライヤーを波折の髪にあてて、ぶおーっと乾かしてやる。さらさらとした髪を梳いていると楽しい。波折が気持ちよさそうにしているのがまた可愛くて、ただ髪を乾かしてあげるという作業なのに心がるんるんと踊った。 「……ん?」  しかし、なにやら妨害が。スマートフォンが鳴ったのだ。沙良は波折に一言いって、画面を確認する。画面に表示された名前は――沙良の父親。なんだろうと思って電話にでると……その瞬間キーンと耳を劈くような声が聞こえてきた。 『沙良ー! 父さんだぞー!』 「わ、わかってる、声でかいぞ父さん」 『今日遅くなるって言ったけど、早く帰れそうなんだ!』 「へー……えっ!?」 『俺の分のご飯も作っておいてくれ! 作れるようになったんだろ!? 楽しみにしてるぞー!』 「ちょ、ちょっと! 今、せんぱ……あっ切れた!」  ……どうやら父が帰ってくるらしい。これからリビングのソファとかキッチンとか、色んなところで波折とエッチしたいと思っていた沙良は鬱々としながらため息をつく。どうしたの? と首をかしげている波折を、ぎゅっと抱きしめる。 「……父さん帰ってくる」 「沙良のお父様? へえ、楽しみ」 「……まじっすか」  波折は沙良の親に会えることが嬉しいようだ。さみしがりやの波折は、複数人でわいわいとするのが好きなのだろう。波折と親を会わせること自体はなんだか結婚のご挨拶みたいでいいなあとは思うが、やっぱり二人でいちゃいちゃとしたい沙良にとっては、残念だった。

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