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学園祭がはじまると、次々と教室に人が入りだした。JSの生徒はもちろん、外部からきたお客さんまで。迷路の裏に隠れている沙良と隣で違う仕掛けをする茉由が、通りすがる人々をみては小声で会話をする。
「さすがJS……色んな人がくるねー」
「あっ桜華(近所の女子校)の生徒だ」
「あー桜華の制服可愛い……」
違う高校の生徒がくると、なぜだか気分が高揚するもの。自分たちとは違う制服を纏う生徒がくるたびに、二人は色めき立っていた。
開始から1時間ほど経ったころ。そろそろ同じ作業をしているのも飽きたな、と沙良が思っているところで、裏方たちがざわめきだす。どうしたんだろうと思っていれば、茉由がぱっと飛びついてきて沙良に伝えてきた。
「可織様だって!」
「……可織先輩か」
――生徒会会計・牧石可織。校内一の美人で、そして成績優秀。男子生徒からは高嶺の花として崇められ、女子生徒からも羨望の眼差しを独り占めする、まるで漫画の世界の登場人物のような彼女。彼女の父は有名企業の社長で、振る舞いもお嬢様のよう。沙良のクラスメートにも彼女のファンは多く、彼女の登場にみんな動揺していたらしい。
可織は友人と思われる数人の女子生徒と来ていた。ただ、最後尾で縮こまっていてよく顔は見えない。いつもの堂々とした態度はそこにあまりなく……
「きゃあああ!!」
……どうやら、ものすごく怖がりのようだ。こんにゃく担当の男子生徒がなにやらいつもよりも多めと言わんばかりにこんにゃくでぺちぺちと可織を叩いている。顔がにやけていて、セクハラにしか見えないが……たしかに可愛い、と沙良はその男子生徒に心のなかで親指をたてていた。いつもはみれない彼女の姿に、学園祭っていいな、と改めて沙良は思っていた。
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