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***  昼食を食べたあとに、二人は鑓水の実家に向かった。ここにくるのは久しぶりだな、とあまりいい顔をしないで鑓水は玄関から中へ入ってゆく。 「あら……慧太。おかえり」  ちょうど出掛けるところだったのか、玄関で二人は鑓水の母と鉢合わせた。しばらく帰ってこない息子に、なんでもないといった笑顔を向ける彼女。やはり彼女も少しおかしなところがあって、それに鑓水はいつものごとく嫌悪感を覚えたが、今はそんなことはどうでもいい。「ただいま」と軽い口調で言って靴を脱ぐ。 「この前もいらしていたお友達よね? 丁度朝クッキーを焼いたのよ。キッチンに置いてあるから一緒に食べて」 「ああ、うん。わかった」  ふふ、と笑って彼女は玄関の扉に手をかけながら言う。「いってきます」と彼女が言ったから鑓水も「いってらっしゃい」と返した。 「……?」  そして、彼女の話に反応するように……二階からガタンと大きな音が聞こえた。鑓水はその音の正体を察する。母の話が聞こえた、二階の部屋にいる錫が、鑓水と波折が家に来たということを知って激しく動揺しているのだ。鑓水はハッと笑って、波折の手を引いてゆく。向かう先は、彼の部屋。ここに来た目的は、錫に「あの人」の話を聞くためだった。

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