286 / 350

***  鑓水の悶々とした気分が晴れないまま、生徒会活動の時間はやってきてしまう。放課後ともなれば校内の学園祭のムードは払拭されつつあったが、生徒会活動はそうではない。学園祭について事細かに振り返っていくことになる。 「慧太。ぼーっとしてないで」 「あ、ああ……」  波折はいつもどおりだ。てきぱきと会長の業務をこなしている。  波折はいつも……ああやってほんとうの姿を隠していたのだろうか。JSという裁判官の養成学校のトップにたちながら、その裁判官の敵となる魔女である彼。さらに魔女による犯罪を誘発させる手助けまでしているという。理想の生徒会長、なんてみんな騙しに騙されているけれど……波折のこの「生徒会長」の姿は、つくりあげたものなのか。  みんなから言われている「王子様」のような態度はさすがに胡散臭いにしても、沙良や自分、友人たちにみせている笑顔は嘘には思えない。完全に仮面をかぶっているとも思えない、波折の学校での姿に鑓水は違和感を覚える。波折のほんとうの姿は、どれ? と。昨日みせた魔女としての顔も、こうして普通の学生として振舞っている顔も、嘘の顔には思えなかった。  波折の、ほんとうの心はどこにあるのだろう。 「――失礼します」 「……!」  うんうんと鑓水が考えていれば、生徒会室に来客があった。ちょうど扉の近くにいた鑓水は立ち上がってでていく。 「風紀委員会です。資料を受け取りに来たんですけど……」 「……ああ。あれ、篠崎は?」  来客は、風紀委員会のようだった。しかし、いつものように篠崎は来ていない。副会長の女子生徒がびくびくとしながら鑓水に話しかけてくる。 「今日……学校に来ていないみたいです。なんだか無断欠席みたいで……」 「……無断欠席?」  彼女の言葉に、鑓水は驚いた。あの一応は真面目でとおっている篠崎が無断欠席などするだろうか。以上に波折に執着していた篠崎があっさりと波折を解放したことと相まって、嫌な予感がしてくる。  今日の帰りに、彼の家に行ってみようか。  なぜか、行かなくてはいけないような、そんな気がした。それと同時に行ってはいけないような気も。この虫の知らせのような予感が一体なんなのかはわからなかったが、とにかく、彼の生存を確認しなければ気がすまなかった。  鑓水は風紀委員会の彼女に資料を渡すと、再び自分の席に戻る。それから口数の少なくなってしまった鑓水を、波折は静かに見つめていた。

ともだちにシェアしよう!