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魔女が惨い事件を起こしたという事例は、あまりない。時折殺人なども起きるが、人を殺せるほどの魔術を扱えるものは非常に少ないのである。魔術の使用は基本的に禁止されているためJSの生徒以外はまともに魔術を学べない。そしてJSの生徒は厳しい管理の下魔術を扱うことになるため魔術による犯罪はそう犯せない。それ故だ。
だから、身近な存在である篠崎が殺されたということに生徒達は過剰に反応した。今までにほとんどいなかった凶悪な魔女が現れた、しかも自分たちのそばに。
「どうしよう……俺、裁判官になるの怖くなってきた」
「……うん」
「焼殺に魔力隠蔽とかどんな魔術だよ。下手したら裁判官よりもすごい魔術の使い手じゃねーの。俺、そんなの相手にするために裁判官になりたいんじゃない」
集会が終わったあと、いつになく結月は神妙な面持ちで沙良にぼやいていた。結月はたしか、裁判官は日本でも権力のある職業だから裁判官になりたい、と言っていた。命懸けで裁判官を続けるというには向いていない動機である。沙良としてはそんな結月を咎める理由もないし引き止めるつもりもない。相槌を打ちながら、彼の話を聞いていた。
「沙良は? おまえは怖くないの? 裁判官になって、魔女と敵対したら篠崎さんみたいに焼き殺されたりするかもしれないんだぞ?」
あまり怯える様子をみせない沙良に、結月は怪訝な視線を向ける。
「怖くないわけじゃないけど、でもそれ以上に俺は魔女を消したいから、裁判官になることは諦めない」
息をするように答えた沙良に、結月はぽかんと口をあけて黙り込んだ。結月は沙良がなぜ魔女を恨むのか、知らない。だからそんなことを言う沙良を理解できないと感じたのだった。
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