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待ち合わせの駅は、沙良の家から少し離れたところにある少し大きめの駅だ。ターミナル駅規模とまではいかないが、駅ビルや主要の施設なんかは揃っている駅。週末となると人が多くなっていてごちゃごちゃとしている。例の事件の影響かいつもよりは人が少なく感じたが平日よりはずっと多い。
改札の前でしばらく待っていると、波折が改札からでてきた。波折はきょろきょろと視線を動かしたあと、沙良を発見すると嬉しそうに微笑む。
「沙良、おまたせ」
「こんにちはー、波折先輩」
ふわりとした笑顔を浮かべる波折は、相変わらず可愛らしい。ここ最近様子が少しおかしかったかな、とも思ったがこうして笑顔で会ってくれてほっとした。
駅の中は駅周辺の店のショップ袋を持った人々が歩いている。それをみているとやっぱり少しここらへんで遊んでいきたいな、という気が起きてくるが軽率な行動をして波折を危険な目に合わせるわけにもいかない。魔女なんて見た目はただの人間だから、どこに潜んでいるのかもわからないのだ。
「じゃあ、俺の家にいきましょう、先輩。あんまりぶらぶらしていると危ないし」
「うん」
二人で、駅の出口に向かって歩き出す。駅構内自体がそこそこ大きいため、改札から駅の出口までは少し歩くことになる。人混みのなかをなんとか歩きながら、だらだらと会話なんかをする。
「そういえば今日……慧太も出掛けるって」
「鑓水先輩? 波折先輩がいないから暇になったんじゃないですか?」
「うん……そうかな、っても思うんだけど、朝早かったからなんだろうなって」
「早い?」
「8時くらい」
「……友達と遊ぶにしては早すぎますね……」
……鑓水先輩か。
鑓水も、最近少し変に感じた。態度も変わらないし、普段通りに笑っているし。何が、と聞かれたら言い表せないけれど、でもたしかに感じる違和感というのだろうか、そんな風に変だった。
「あれ……なんだか変じゃないですか?」
「変?」
改札から少し離れて駅の出口に近づいたあたりでのことだ。なにやら、出口の方向からごちゃごちゃと人がやってくる。彼らの顔を見てみると、皆狐につつまれたような顔をしている。
「どういうこと?」
「外に出られないって」
「――外に出られない?」
出口の方から来た人々は口々に「外に出られない」と言っていた。すれ違う人の会話を聞いていると、なんでも出口のあたりにバリアーのようなものが張ってあるらしい。そしてなぜか構内にいる人全員のスマートフォンの電波が途絶えてしまった。
「まるで閉じ込められているような……」
周りから得られる断片的な情報を聞いていくうちに、何者かが駅を包囲したのだと人々は感じ取る。スマートフォンの電波は途絶えても、駅のもつ通信網は途絶えていないだろう。すぐに誰かが駆けつける……そう思った矢先のこと。
「――きゃあああ!」
どこからか、悲鳴があがる。いつの間にか駅構内にいた人々は恐怖から身を守るように固まっていて、その場から動こうとしない。悲鳴が遠くから聞こえてきても、誰も見に行こうとは思わなかった。しかし、次に聞こえてきた叫び声で、全てを把握する。
「――魔女だ! 魔女がでた! 魔女が人を殺した!」
――魔女。この騒ぎは、魔女によるもの。
魔女がなんらかの魔術を使ってこの駅全体に膜を張り、中にいる人達を閉じ込めた。そして恐らく次にとる行動は……
「――みんな魔女に殺される!」
無差別殺人。一体なんの目的があってそんなことを? 理由もなくそんなことをするだろうか。そう思うが、事実すでに人が殺されている。人々はパニックになって散り散りに走りだした。まだ魔女は姿を表していなく、広い駅のなかは逃げる場所がたくさんあるようにみえる。皆色々な場所に向かって消えていってしまった。
「……先輩、どうしましょう」
沙良も、どうにかしないとと思いつつ周囲と同じようにパニックになってはいけないと冷静を装った。隣にいる波折に尋ねてみれば……波折はなにやら、神妙な顔つきをしている。
「……これだけの魔術を使える魔女が……そんなにいるわけ」
「先輩?」
「……俺達もとりあえずどこかにいく?」
「そう、ですね」
波折はしばらく考えこむように一点をぼーっとみつめていた。波折はどうしたのだろうと沙良は不思議に思ったが、こうして目立つところに立っていて魔女に見つかってしまっては危ない。波折の手を引いて、とりあえず目についた駅ビルに向かって走りだした。
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