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「だめだなァ、波折。完璧な生徒会長が魔術なんて使っちゃだめだろう。それに波折が使わなきゃ神藤くんが使ってくれたかもしれないのに……」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
「俺に逆らうとかどうしたの、波折。おまえは俺の一生隷属するはずなんだけど」
「ごめんなさい……」
必死に謝る波折は恐怖のあまりガタガタと震えている。沙良はこんな波折を初めて見たため、動揺してしまった。しかしその波折の姿は、「淺羽が波折のご主人様である」ということにより真実味をもたせている。尊敬していた先生が、波折の「ご主人様」で、そして魔女の仲間だなんて。
「……鑓水先輩は、どうして淺羽先生と一緒に、」
「ああ、彼?」
淺羽は波折の頭を掴みながら、笑う。沙良の問がなにやら面白かったのか、くつくつと肩を震わせた。
「彼も、俺達の仲間だからだ」
「……前から?」
「いやあ、最近。波折のことを知ったら一緒に来るって言ってくれた」
「なっ……」
ばちり、と沙良と鑓水の目が合った。
「……鑓水先輩……脅されてたりします?」
「いや……」
「……じゃあなんで波折先輩が魔女だって知って、一緒にいるんですか?」
「……波折が一人で魔女として生きるの、辛いだろ。だから支えたいって思った」
ぼそりと返された答えに、沙良は閉口した。そして、口元をひきつらせて、言う。
「……本気で言ってるんですか?」
沙良がズカズカと歩いて行って、鑓水の胸ぐらをつかむ。お、と小さく反応をみせた淺羽は無視して、怒鳴りつけた。
「波折先輩が魔女ってことは……犯罪者ってことですよ……! これからどんどん人を殺していくんですよ! それを、鑓水先輩は助長するんですか! 波折先輩が手を汚していくのを、推し進めるっていうんですか!」
「うるせえ! あいつは、もう後戻りできない……それなら俺はあいつのそばにいることしかできないんだよ!」
「好きな人が犯罪に手を染めるのを手助けすることの何が愛だよ! 止めろよ命がけで!」
「止めるにはあいつを殺すしかねえだろうが! 俺にはそれができないって言ってんだよ!」
「――ッ」
殺すしか、ない。法律で許可されている範囲を超えて魔術を使った時点で、その人間は魔女になる。だから波折が魔女になったのなら、もう魔女であるという事実を変えることはできない。それにもうすでに人を殺しているらしい波折は、まともな人間には戻れない。加えて――淺羽という存在。先ほどの必死の謝罪をみた時に痛感した、波折は「ご主人様」に逆らうことは絶対にできない。「命令違反」で魔術を使ったらしいが、あれは淺羽の目がなかったからだろう。波折が彼の支配の下から完全に逃れることは、おそらく不可能だ。だから……本当に波折を止めたいのなら殺すという方法しかない。
でも、だからと言って殺すのか。
俺を裏切って、みんなを裏切った魔女のために、俺の未来を潰すのか。
「……おまえが、殺せ」
「……たしかに波折先輩は魔女ですけど……でもここで俺が殺して、俺も魔女になってどうすんですか」
「それがなんだよ……魔女になったからなんだよ、好きならそれくらいいいじゃねえか」
「好きって……俺のことずっと騙していた波折先輩を……俺のことを弄んで、そしてどうせ裏で笑っていたんでしょ、あの人。その人のために魔女になんかなってやるもんか」
吐き捨てきるように言った瞬間、視界がぶれた。チカ、と頭の中が真っ白になる。何が怒ったのかもわからないまま沙良は床に倒れこんで、しばらくして襲ってきた頬の痛みに、鑓水に殴られたのだと理解した。
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