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第2話
男は思い切り腕を引っ張り抜き、彼はその勢いのまま壁に体をぶつけてその場にしゃがみ込んだ。
打った肩を押さえながら顔を上げて男を見ると、その指は最上階を押した後、閉扉ボタンに伸びた。
今逃げなければ。これを逃したらもう・・・。
咄嗟にそう思った彼は脚を踏み込んで、閉まりかけのドアに手を伸ばした。
手さえ届けば、後はこじ開ければいいんだ。
「ダメだよ逃げたら」
冷静な声が聞こえると、男は彼の二の腕を掴み容易くその体をまた壁に叩きつけた。
無情にもドアは閉まり、エレベーターは浮上した。
一気に襲いかかってくる恐怖に、彼の体に力が入る。
「初めは優しくしたいんだ」
「何が目的なんだっ!」
震える声で必死に虚勢を張る彼の目の前に、男はしゃがみ込む。
「目的?そうだな・・アンタを俺のモノにする事、かな?」
「い、意味がわからない・・」
「意味なんて簡単だよ。ああ、この人だって一目でわかった」
表情は無いが、どこか嬉しそうな男は彼の頬を撫でようと手を伸ばすが、彼はそれを叩いた。
「やめろっ!」
「そんなに怖がらないで。今すぐ犯したくなる」
「ッ!」
叩かれた手を見た男は、その手で彼の首を捉えた。指先に力を入れると皮膚に食い込む。
首の絞まる感覚と痛みと更なる恐怖に、彼の目は潤んだ。
「いい顔するね・・」
男はあっさり手を離すと、彼はうずくまり咽せるように咳き込んだ。押さえる首筋には指の痕がくっきりこびりついていた。
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