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第5話
息ができない。手を突いて起き上がろうとしてもビクともしない。なんて力なんだ。
彼は全身を使って抜け出そうとするが、少しの光も見えず絶望する。
このまま死ぬのか。
彼の頭にそんな事がよぎると、男は頭皮に爪を引っかけながら髪を鷲掴みにした。
「反省した?」
頭が仰け反るように引っ張られ、慌てて息を吸った彼は返事の代わりに何度も頭を上下に動かした。
「わかればいいよ」
彼を解放した男はテーブルに置いてあった煙草に手を伸ばして煙を噴かした。
のそりと起き上がった彼は男と距離を取るようにソファーの端に座り直した。
どうしてこんな事をするんだ、と聞きたいが怖くて聞けない。
暫し無言でいると、吸い終わった煙草を灰皿に圧し消した男が立ち上がった。彼は体を力ませて横目で見ていた視線を逸らす。
「おいで」
俯く視界に男の掌が差し出された。
「おいで」
一回目よりあからさまに低い声で呼ばれる。
彼は恐る恐る手を伸ばすと力強く引っ張られた。そのまま手を繋がれ部屋の中を歩き、あるドアの前で立ち止まった。
男がドアノブに手を掛けると、隙間から見えるのはベッドだ。
無意識に手を引いた彼を更に引っ張って、部屋へ連れ込む。
「た、頼むからせめて会社に電話を・・」
「いいよ」
あっさり承諾されたが、男は彼をベッドの上に座らせここで電話しろと言った。
スラックスのポケットからスマホを取り出し耳に当てる。呼び出し音が鳴る間、変な緊張感にゴクリとつばを飲み込んだ。
「あっ、梅村です───」
彼が自分の名前を名乗ると、側にいた男は腰を折って彼の持つスマホに耳を当ててた。
本当に会社に電話したのか。変なことを言わないか。
監視するように。
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