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第13話

「よくできました」 彼を掴んでいた手を離した男は一人ベッドから降りて、部屋から出ていった。 咥内から喉奥まで纏わり付く独特の臭さと味を少しでも取り除こうと、彼は唾液を溜めては飲み込む動作を数回繰り返した。 けれどなかなか不快感は拭えず、口をすすぎたいと思った。男に言えば聞いてくれるだろうか。 そんな事を考えていると、男がまた寝室に戻ってきた。 「喉渇いたよね」 ほら。と差し出されたのは、コップに入った水だった。 彼はそれを素直に受け取ると、半分くらいまで勢いよく飲んだ。 「あと、口、あーんして」 意味がわからず躊躇ったが、今までの仕打ちを思い出し、彼はそっと唇を開く。 「もっと」 苛ついた声にビクつきながら、もう少し大きく口を開くと、男は彼の舌の上に何かを放り投げた。 「え?」 「ただの睡眠薬だよ。疲れただろ?ゆっくり眠って欲しくてさ。ほら飲み込んで」 コップを持っていた手を掴まれ、強制的に口元へ誘導される。 なんで睡眠薬なんか・・・。 そう思ったが、拒否する前に咥内に水を流し込まれて、反射的にゴクリと飲み込んだ。 「ちゃんと飲めた?」 男は彼の咥内に指を入れると歯列をなぞり、舌をめくり、薬をちゃんと飲んだのかを確認した。 「じゃあ、おやすみ」 満足げな男は、彼の肩を押しやりベッドに寝かせると寝室を後にした。 彼はどうにか逃げ出すことが出来ないかと部屋のあちこちを見渡したが、逃げ道は足下のドア一つだけのようだ。 勢いよく玄関まで走り抜けてそのまま・・───。 どうにかなるんじゃないのか、と考えていると段々と視野が狭くなってきた。目もうつろになり、何も考えられなくなり、彼の目が閉じると体は力なくベッドに沈んだ。

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