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第34話
ネクタイをしっかり締めた智則は部屋を後にすると会社へと向かった。
行き交う人の群れに何処か不安を抱き、目を泳がせながらもどうにか会社に着くと、真っ先に部長の元へ出向き頭を下げた。
電話の時と変わらず、受け入れてくれた事に胸をなで下ろした智則は部長の後についていき各部署へ挨拶回りをした。
最後に自分の所属へ行き、部長の紹介に続いて智則は謝罪と共に意気込みを誓った。
遅れを取り戻すべく、早速パソコンを起動させて作業に入ろうとすると、隣からローラーの転がる音がしてそちらへ振り向いた。
「よろしく!俺も半年前、ここに来たんだ」
椅子を転がし、気さくに話しかけてきたのは、同年代くらいの男だった。
智則同様、田舎から都会へ出向したという男はやっと都会の生活に馴染めてきたむみ、苦労したと眉を下げてみせた。
「本当に。俺も来て早々道がわからな───」
自分と似たような心境に親近感を抱いた智則は苦労話を分け合うように口を開いたが、言葉が途中で詰まってしまった。
不意に感じた口内の違和感に、一瞬で数日前の現実に戻された。
陰茎に付けられたピアスは下着を脱がない限り見られる事はない。でも舌に開けられたこれは。
「どうした?」
急に言葉をつまらせた智則を不思議そうに見つめるこ男に頭を下げた智則はトイレへと向かった。
中に誰もない事を確かめると、鏡に身を乗り出すようにして舌を伸ばして覗き込む。
「もしこれが見つかったら…」
大きな口を開けてみろ…すぐにバレてしまう。智則は極力人と話す事避け、黙々と仕事をするようになっていった。
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