36 / 43
第35話
元は人と関わることが得意で社交的な智則の性格は日に日に内向的になり、周りからも一つ壁ができてしまっていた。
隠し事を続ける日々の反動なのか、家に帰ると行き場のない欲に毎日振り回されていた。
「あっ、あっ、ハアッ」
勃起した陰茎を激しく擦りながら、自分の口内へ指を入れて舌に付いたピアスを撫でてオナニーをする。
これが 普通じゃない事はわかっていたが止められない。
いくらイイ所を擦っても終わりが見えず欲は堪る一方。あの一件以来、智則は射精できなくなってしまっていた。
オナニーでイケないのならいっそ誰かを買おうと本気で思ったこともあったが、男に付けられたシルシが邪魔をして結局なにもできないまま。
普通に、いつも通りに、戻ったんだと言いきかせても何かがオカシイ。
会社にいるときは平静を装うが家に帰ってくると爆発して振り回される。
「ッ、もう限界だ…」
ジワリと浮かんだ涙を溜めて、智則はフラフラと家を出ていった。
記憶を辿り、朦朧と足を進めるのはあの場所。
スラックスにワイシャツ一枚の着崩した姿は目立ったが、誰も声をかける人はいない。
普通に戻れたと思っていた日々はどんどん異常になっていく一方で。忘れたい過去は色濃くなっていくだけ。願えば願った分だけ遠のく感覚に我慢ならなかった。
家を出てどの位たっただろうか。
智則はあるマンションの前で立ち止まっていた。
エントランスから視線を上げて最上階を見上げる。
俺はあそこで……。
息苦しなる胸をワイシャツごと鷲掴み、震えるように呼吸をした。
自動ドアを通ろうと足を踏み出したのと同時に、後ろへ引っ張られバランスを崩した。
「おかえり、智則」
耳元で聞こえた声に慌てて振り向くと、優しく微笑むあの男が立っていた。
「行こうか」
手を取られるままに、智則は男の後についてエレベーターに乗り込んだ。
ともだちにシェアしよう!