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Ⅰ 会社がないっ!!①

ジィィジィィィ 夏の名残の蝉が鳴いている。 雲一つない空から降り注ぐ太陽の蒼が、クルクル廻る。 緑が揺れて、木漏れ日が射した。 影が光を踏んで、光が影を踏んで、大樹の下で陽光が遊んでいる。 からかわれてる…… 絶対からかわれてる…… 「ご馳走様でした」 「……こちらこそ、ご馳走様です」 壬生様ほとんど食べてない気がするんだけど~。 壬生様のパフェは、俺がほぼ完食してしまった。壬生様のスプーンから。 ……赤面 「あのっ。奥様の具合は如何ですか」 「昨日、見舞いました。元気でしたよ」 「良かったぁ」 スマホの写真見せて貰ったけど、綺麗な人だったなぁ。 新婦様は入院している。新婦様とは明日の式当日が初顔合わせだ。挙式は全部、新郎の壬生様が段取りされた。 こんなに壬生様が頑張ってるんだ。 一生の思い出になる素敵な結婚式にしたいな! 「春道さん。妻の事なんですが、ちょっといいですか」 「何でしょう」 カチャン 身を乗り出した拍子に、パフェのガラスの中で銀のスプーンが鳴った。 トゥルルートゥルルー 鞄の中でスマホも鳴動する。 「どうぞ、春道さん」 「すみません」 壬生様に会釈して通話を押した。 「……打ち合わせは順調ですよ」 着信は会社の赤築(あかつき)さんだ。面倒見のいい先輩なんだよ。 えっ、はい……はい……はぃィィィ~?! スマホを持つ手が震え出す。 ガクガク震えが止まらない。 「は、はい……至急…戻ります」 ツー 夏の太陽が、体温を奪う。 血の気の失せた指先から、汗が滴り落ちた。 通話の切れたスマホ うそ なんで? どうして…… ガタンッ 椅子が倒れた。 肩を掴まれてハッと見上げると、尋常ならざる俺の様子を心配げにのぞき込む黒瞳がある。 どうしようっ 「壬生様……ごめんなさい」 上質なスーツにしがみついた手が、皺になるくらい襟を握りしめている。 「俺ッ俺ッ」 「落ち着いて」 「結婚式は何とかしますからっ」 「まずは深呼吸しましょう。吸って……」 壬生様に促されて、吸って吐いてを繰り返す。 何とか喋れるようになったかも。 「会社が……」 「会社がどうしたんですか」 会社が…… 「………倒産しました」

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