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第4話

「っしゃ!これで6連勝!」 「マジかー」 6連敗でヘコむ茅野(かやの)に俺は余裕のガッツポーズを見せてやる。 「なんか今日、調子悪いんだけど」 茅野は不満げに俺を横目で睨んできた。 「実力だろ?」 「違う、コントローラーが!これ壊れてね?」 「は?」 「さっきから、コマンド入力してるのに反応しないんだけど」 茅野が持っているコントローラーのボタンを指差す。 「斜め下が入んないからコンボにならないんだよ」 「貸してみ」 俺はそれを受け取って茅野の言うコンボを入力する。 ──あっさりと技は出た。 あまりにもすんなり出来たので、まず俺は呆気にとられ、それから大爆笑した。 「バーカ。やっぱ実力じゃん。コントローラーのせいにしてんじゃねえ」 「う、うるさいっ!」 茅野は俺が腹を抱えて笑っている間にコントローラーを奪い取り、何とか技を出そうと躍起(やっき)になっている。 かわいそうな茅野は何度やっても技が出ない。 笑わせて貰ったお礼に茅野の練習を見てやる。 よく見ると若干やり方が違う。 「茅野、下に入力してから少し押しっ放しにすんだよ?」 「やってるよ」 だが、やはり出ない。 「タイミングが違う。こうすんの」 もう一回やって見せた。 茅野は穴が開きそうなほど俺の手を見て再度チャレンジする。 「……佐倉(さくら)ぁー」 出たのは悲痛な茅野の声だ。 しょーがねえなと思いながら、茅野の背後に回った。そこまで来て逡巡(しゅんじゅん)する。 (触っちまったら……抑えが効かなくならねえか?) だが結局、すぐ離れりゃいいか、と自分を納得させる。 そして茅野を後ろから抱きかかえ、上から俺の手を重ねた。 茅野が俺の腕の中にすっぽりと収まった。やっぱり、小さい。 手をそのままにして、さっきの技のボタンを押す。 「あ。出た!」 「ほらな。タイミング、分かった?」 そう言って体を離そうとした瞬間、 「分かった、サンキュー佐倉!」 茅野が嬉しそうな声で振り返る。 (馬鹿か。そのまんま、こっち向いたら──) 「あ……」 当然ながら至近距離で見つめ合うことになる。 小さな声を上げて即座に茅野は顔を逸らした。 「あ、ありがとな。分かったから……もう、いいよ佐倉」 むこうを向いた耳が赤い。 (なんなの、この考えなしの行動) 俺は呆れ半分でそのまま動いてやらなかった。 うつむいた茅野の白くて細いうなじが眩しい。 (こんなものを目の前で見せつけやがって) その首筋に触れるくらい近くで俺は言った。 「……俺が好き?茅野」 「……」 今日は否定も肯定もしない。 「否定しねえの?」 「……す、好きじゃ、ないよ」 その言い方はまるで言われて仕方なく、といった風にも聞こえる。 そうしているうちに茅野が体を離そうとして俺の中でもがき出した。 「佐倉……離、して」 じたばた暴れる茅野は手の中に握り込んだハムスターみたいで、俺は離すどころか逆に腕に力を込めた。 (なんでこいつはこんなに俺を煽ってくるんだ?) ひょっとして、ワザとやってんのかと思いたくなってくる。 「昨日の今日で学習しねえな、お前」 背後から吹き込むように耳元で言ってやる。 「や……、離せよっ!」 「離すと思うか?」 必死な茅野が可愛くて含み笑いになった。 「佐倉っ!」 茅野は逃れようとして力一杯、俺の腕から抜けようとしている。 そこまで全力を出されると、俺も、もう少し力を込めずには捕まえていられない。 「おい、ちょっと大人しくしろよ」 言っても茅野は聞こうとしない。どころか、さらに抵抗する。 (──俺のせいじゃねえぞ) 「そんなに、暴れたら、俺も本気出しちまう、だろ」 茅野の体を抱き締めたまま体勢を入れ替え、押し倒す。 咄嗟(とっさ)に何が起こったのか分からないといったふうに、茅野は目を丸くして俺を見た。 「だから大人しくしてろって言ったのに」 そんな茅野を見下ろしながら、どう見えるか分かった上で、ゆっくり笑う。 「お前が、誘ったんだからな」 そしてそのまま、違うだとか、ふざけんなとか、つまらない事を言い出す前に茅野の口をキスで塞ぐ。 そんな事を言わせておくには勿体ないほど、この唇は甘い事を、俺はもう知っている。 「んぅっ……んん……」 茅野は息を詰めて、苦しそうな声を喉で上げる。顔を避けてキスを逸らそうとする。 だけどそれも長く保たない。 俺がそれを知ったという事は、茅野も、同じ事を知ったという事だからだ。 息苦しいせいか、意図してか、薄く開いた茅野の唇の隙間に、すかさず舌を差し込んで絡め取った。 「ふぅ……っああっ、あ、あ、は……っんぅ」 昨日よりはるかに少ない抵抗のあと茅野は鼻に掛かった甘えたような声を出した。 わずかに腰を反らすように浮かせ、肩を押さえている俺の腕をすがるように掴む。 また茅野の見たことのない一面を垣間見る。 感じているのが一目瞭然だった。それを全然、隠し切れてない。 声だけを聞いても情欲が煽られるような感じ方だ。 (なんだよこれ、キスだけでエロ過ぎんだろ) 頭がクラクラする。 急激に血液が下半身へ行き過ぎて頭に回ってないんじゃないか。 なにも考えられず何度も舌と舌とを絡め合わせ唇をついばむように吸う。 敏感な粘膜と粘膜を重ね合わせ、擦り付けて、まさぐっている感覚に身体中が興奮する。 茅野も受け身ながらも応じているし、ともすれば耐え切れなくなったように身体をビクンと震わせる。 濡れた水音と茅野の吐息だけが部屋にいやらしく響く。 「茅野……」 俺は唇を触れ合わせたまま、名前を呼んだ。 「ふぁ……?」 意識が飛んでいるのか、寝ぼけたような声が返ってくる。 「俺とキスすんの、好き?」 尋いておきながら俺はわざと唇を合わせて舌を深く差し込む。 「は。ふ……ぅ……んぅ……ん、すき……ぃ」 自由にならない言葉で茅野はうわごとのように肯定した。 「俺のことは?」 「……ずる……い……そん……な、の」 途切れ途切れに非難するような声を出す。 これで流されるほど冷静さを失っているわけではないらしい。 かなり強情なやつだ。 唇を離して覆い被さったまま、顔を上から覗き込む。 「ずるい?」 茅野は少しのあいだ俺を見つめていたが、耐えかねたように顔を横に向けてしまう。 「俺にばっかり尋いて、じゃあ……佐倉はどうなんだよ」 そしてこっちを向かずにそう言った。まるで拗ねて怒った子供のようだ。 「先に尋いたのは俺の方だろ」 「順番なんて関係ないだろ」 「ふうん、そんなに俺がどう思ってるか知りたいんだ?」 「……い、言えよ」 「俺は、お前みてるとムラムラしてくるよ。昨日からな」 言いながら茅野の両肩を掴む。そうして動きを封じてから首筋に唇を押し当てた。 「……なっ……!」 「言ったぜ?正直に」 そして硬直している茅野の細い首に吸い付き、首元から耳の後ろまでを舐めた。 「ひ、ぁ……っっ」 茅野が悲鳴のような声を出す。 「……昨日の続き、しようぜ」 耳元で囁いた後、その耳もしゃぶるように口に含んだ。 「や……っ、やめろ、よ……佐倉っ」 茅野は怯えたような声色で押し返そうともがく。 だが俺がのしかかっている上に、腕の付け根を押さえているせいで押し退けるのは無理だった。 「もちろん本当に嫌なら止めるけどさ」 これだけずっと密着しているんだ。分からない訳がない。 「お前、ずっと勃ってんじゃん」 キスしている時から気づいていた。俺は自分のものと重ね合わせるように腰を押し付けた。 「こんなに期待されてたら、止められねえよ。なあ」 俺1人の欲望で茅野を陵辱するわけにはいかないが、こいつの身体が拒んでいない以上、遠慮するつもりもない。 「あ、あぁ、っ……やめろ……て」 俺は片手で茅野のベルトを外すと、その中に手を差し入れた。 「うそ……!?や、いや……んんっ」 「嫌がってるとは思えないくらい反応してんじゃん、お前」 下着の上からすでに湿った気配は分かった。さらに直に触ると滑った感触に手が濡れる。 「あ、はぁ……っ、あ……っく……っ」 俺はゆっくりと茅野の性器に手を這わせ上下に動かす。 茅野は頬を上気させて吐く息まで熱い。もう抵抗なんて考える余裕もなさそうだ。 他人に直接、触れられる刺激を堪えるのに精一杯のようだ。 邪魔なので、その隙に茅野の足からズボンと下着を抜き取って晒す。茅野はされるがままだ。 茅野の頭をかかえるように抱き込んで額に軽くキスをした。涙目の茅野が切なそうに俺を見上げる。 そんな茅野の誘うような色気に反応してジンジンと痺れるように身体が疼く。 俺は茅野に口づけながら、その下半身に手を伸ばす。 先端を親指の腹でぐるりとなぞるように押し付けてみる。 「ふ、あ、んぅっ……っは、あ、ああんっ」 茅野が喘ぎながら俺に縋り付く。 (まただ) 自分の中に残酷な嗜虐心が沸き立つのを感じる。昨日よりはっきりと。 乱れて泣かされながらも依るべきところがなくて、俺に縋り付くしかなくなった茅野が見たい。 (なんだよこの気持ち) わけが分からないまま茅野を追い立てる。 「茅野?気持ちいい?なあ?」 ゆるゆると敢えて、もどかしく感じるように刺激を与えながら茅野の耳に吹き込んだ。 「あっ、あぁ、ん……っ、さくらぁ、も、やだぁ」 「やだ?へえ、そうなの。じゃ、止める?今すぐ」 「ちが、んっ……き、もちい、から……佐、倉ぁ」 茅野が焦れたように俺の手に腰を押し付けてくる。 (やっぱこいつエロ過ぎんだろ) こいつが煽るから俺がおかしくなるんだ。 これじゃどっちが煽って煽られてんのか分からなくなる。 「……お前がエロいから俺も限界。茅野、触って」 茅野の手を取り自分のそれに導く。茅野の手がぎこちなく俺を扱く。 俺にしたって他人に触られるのは初めてだ。強烈な快感に眩暈がした。 「くっ、ヤバ、こんなの、すぐイっちまう。お前、よく我慢、してんな」 「そん、なの……して、な……っ……だから、もう、佐倉……っ」 茅野が涙声で懇願する。 俺は体を起こして茅野の体も引き起こす。 向かい合いになり、お互いを触りながら昂ぶらせていく。 「もぅ……も、無理……ん、ぅ、佐、倉……」 「俺も、もう駄目……く」 茅野の顔を引き寄せ唇を重ねて、一際きつく扱き上げる。 「んぅ、んんっ……も、ホントにダメ……でちゃ、う」 「……俺もムリ、イク……っ」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 同時に果てて、お互いの肩に額を押し当て、荒い息をつく。 少し落ち着いたところで、ティッシュとウェットティッシュを茅野に投げる。 「うわぁ……ベトベト……」 茅野が手を拭きながら顔をしかめている。 せめてイク時ティッシュを使えばよかったが、そんな余裕はまるでなかった。 茅野は脱がせてやったからまだマシなものの、俺なんか制服のズボンに掛かってる。 「何も考えないでやったもんな」 「何も考えないでやるなよ、こんな事!!」 なぜか俺のその一言に茅野が目くじらを立てた。 「──そういう意味じゃねえよ。それよりお前やっぱ俺のこと好きなんだろ?」 言ってすぐに失敗したと思った。 茅野の勢いに押されて、こんな風についでのように言ったところで、こいつが認めるはずがない。 (言うタイミング間違えた) 「好きじゃねーよ」 思った通り、条件反射と思われる早さで茅野は否定する。 「じゃあお前、好きでもない奴とこんな事するのかよ」 「佐倉がしてきたんじゃんか!」 「だったらお前、俺が好きなのか、気持ちいいのが好きなのか、どっちが好きでやったんだよ」 こうなってくるともう、ただの売り言葉に買い言葉だ。 「そういう事じゃないだろ!」 「そういう事を尋いてんだよ!」 「知るか、佐倉のバーカ」 子供のような言い合いに、腹が立つというより段々と笑えてくる。 (なんなんだ、こいつは。エロい時とのギャップがありすぎだろ) 「もう帰る」 身支度を終えると立ち上がり、ふくれっ面で茅野は言った。 (ガキみてえ) 茅野に見えないように少し笑う。 部屋を出ようと、ドアに伸ばした手を押さえて、俺は茅野を引き留めた。 「なに?」 怪訝そうに茅野が見上げてくる。 この調子だとまた明日怒って迎えに来ないだろう。俺は茅野と違って学習するんだ。 このまま帰すわけにはいかない。 「──嫌だったんなら、悪かった」 俺は神妙そうに低くそう呟いた。 茅野は一瞬、目を見開いてから顔を伏せる。 「だから機嫌直せよ、な」 俺は追い打ちを掛けるように、壁に手をついて茅野を覗き込む。 「別に……嫌だったわけじゃ……ない」 茅野は消え入りそうな声でそう言った。 (よし、勝った) 何に勝ったのか正直わからないが、とにかく俺はそう思った。 これで明日はいつも通りだろう。 言質も取ったことだし俺には茅野を引き留める理由はもうないが、なぜか茅野が動かない。 下を向いたまま、もじもじしている。 また照れているように見えるが、今更なにを照れるんだ。 「茅野?」 「……」 やっぱり照れてる。昨日みたいに。 茅野の恥じらいスイッチがどこにあるか分からないが、その姿は可愛かった。 つい触りたくなる。 (くそ、余計な事したらまた怒らせんのに) 結局、我慢し切れない。 うつむく茅野のあごを持ち上げて、これくらいならセーフかと重ねるだけのキスをした。 抵抗はなかったが茅野の身体はぎこちなく強張って、唇が触れた瞬間、熱いものに触ったみたいにビクンと跳ねた。 そして唇が離れると逃げるように帰って行った。 (あれはどっちの反応だったんだ?) 意地っ張りであまのじゃくな茅野を素直にさせるのは想像以上に難しい。 しかも、なんだかんだの勢いで、すごい事をしてしまった気がする。 でも──なんでなんだよ。茅野を見てると自分を抑制できない。 今まで毎日、イヤってほど顔を合わせて来たはずなのに……。

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