家の前で惚(ほう)けていても仕方がないので俺もそのまま帰って飯を食った。 両親共、相変わらず帰っていない。 いつ茅野が来るか分からなったので風呂に入るわけにもいかず、何かをしようにも手につかず、妄想だけが膨らみ続け、やっと茅野が来たのは１０時頃だった。 「茅野、風呂は？」 「入ってきた」 「じゃあ、俺入ってくるから、部屋で待ってて」 「分かった」 会話をしながら茅野があからさまに俺の目を見ない。 自分から誘っておいて、恥じらいスイッチが入ってしまっているようだ。 俺は少し悪戯心が湧き、茅野の顎を指で持ち上げて顔を上げさせた。 そのまま顔を近づけると思い切り胸を押し返された。 「い、いいから、早く、風呂入って来いよ」 「キスくらい、させろ」 茅野の言葉は無視して、その唇を奪う。 唇を重ね合わせてしまうと、茅野はもう抵抗せずに甘い吐息を漏らす。 火傷するかと思うくらい熱い茅野の舌に、俺の方が堪らなくなって顔を離す。 こんな廊下で限界になっても格好悪い。 つまみ喰いはほどほどにすることにして俺は風呂へ向かった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 風呂から出て部屋に戻ってみると、茅野はベッドからかなり遠い所に座って待っていた。 戻ってきた俺へ顔も向けない。 「おかえり」 声だけ寄越してマンガに目を落としている。 「明日から、部長たちとすげえ顔合わせ辛いんだけど、どうしよう。それから俺は大丈夫だけど、佐倉、キョドって変なこと言ったりすんなよ」 「はぁ？」 （藪から棒になんだ？） 俺は洗いさらしの髪を拭きながらベッドに座った。 茅野は何かに追い立てられるように話を続けた。 「あのノートパソコン明日直ってなかったら、やっぱまずいよな。壊れてないといいけど、っていうか俺が壊したわけじゃないけど」 どうも茅野の様子がおかしい。やけに饒舌(じょうぜつ)だ。 （スイッチ入ってるのはさっき分かったけど……） 明らかに俺に何かを言わせまいとするように矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。 「お前も俺が壊したとか言うなよな。本当に壊したわけじゃないんだから」 まだ茅野はしゃべり続ける。 「佐倉、ロッカーのカギ閉めてたよな。俺、全然、記憶にないんだけど。ヒッキーに……」 俺はしばらく黙って聞いていたが、キリがなさそうなので口を挟んだ。 「──茅野。お前がめっちゃ緊張してるのと、勢いで誘ったのをちょっと後悔してることは分かった」 茅野の口がおしゃべりを止めた。 気まずそうに自分の腕を掴んでいる。 「でもお前、うちまでヤりに来たんだから、もうこっち来いよ」 「そんな、露骨に言うなよ……」 「露骨も何もセックスしに来たんだろ、違うの？」 「……違わない……」 諦めたように茅野は立ち上がってノロノロとベッドまで来る。 「後悔しても止めねえよ。俺いま、おまえ抱きたくて仕方ないもん」 「後悔まではしてねえよ……少し、っていうより結構、怖いだけだよ」 「先輩たちもしてたんだし、出来るだろ」 「それで安心させてるつもりかよ！？他人事じゃなくてちゃんと、ゆっくり、痛くないように、しろよ？」 そう言って手に持っていた紙袋を俺に渡す。 ローションとゴムが入っていた。 「──頑張ってみる」 それを覗き込んで俺は言った。 「……やっぱ後悔、してきた」 「冗談。優しくする」 「……信じられない」 俺は少し笑って茅野の身体に体重を掛けながらキスをする。 茅野がゆっくり倒れてキスに応じた。 そのまま茅野の服を脱がしながら肌を手のひらに感じる。 いつも服に隠れている部分を、直接触るという行為というだけで、単純に興奮して気持ちがいい。 たぶん茅野も同じで、だからどこを触っても感じるんだろう。 脱がし終わって全身にキスすると茅野の息はもう上がっていた。 「なぁ、どうするのがいい？」 「どうって……」 茅野の中に入るために、しないといけないことは分かるが、どうやるのが一番良いのか知らない。 できるだけ無理をさせたくないと思った。 「そうだ、おまえ自分でしてた時、どうやってたの？それ見せろよ」 そうすれば理解できるかもしれない。 しかし茅野は何を言っているのか分からないという顔で俺を見た。 それから真顔で言う。 「ほら、すぐそうやって意地悪すんじゃん」 「どこがだよ」 意地悪で言ってるわけじゃない。 むしろ理解しようとしてるんだから優しいんじゃねえのか。 「前から思ってたけど佐倉ってナチュラルに変態入ってるよな」 「ん？うん」 それは自分でもそう思っているから否定しない。 その部分についてはもう開き直ったんだ。 思い悩んでも仕方ない。 「それは自覚あんだ……」 じゃあ改善の見込みナシじゃんと、ため息をついて茅野は身体を起こした。 「自分でしてるとこ見たいなんて、変態プレイだからな」 諦めたような表情で茅野は俺を睨む。 そしてローションを手に取った。 「これはそういう意味じゃねえよ」 「どういう意味でもだよ」 トロリとした液体を手に塗り付ける。 だが、それから茅野はうつむいて動かない。 「どうした？」 俺が声を掛けると茅野はうつむいたまま答えた。 「──分かってんのお前。こんなの、すげえ恥ずかしいんだからな」 分かっていないのは茅野だ。 それが逆効果だという事を。 恥ずかしがっている茅野がそれでも晒す行為を、俺がなおさら見たくなるという事を。 いま自分で俺が変態だと言ったくせに。 「いいから、早く」 俺は茅野の膝を持って両足を広げた。 あっ、と声を上げて茅野が咄嗟に閉じようとするが、押し留める。 「ちゃんと見ててやるから」 「……っ」 「佐倉……どうしても、しないと……ダメ……？」 「ダメに決まってんだろ」 もうそんな顔を見てしまったら。 止めてやるわけがないだろう。 茅野は左手で尻臀を広げるように持つと右手の中指を当てる。 「ほら、して」 催促すると茅野がチラリと見上げる。 今すぐにでも押し倒したくなりそうな羞恥に染まった目だった。 「自分で、してみせろよ。留衣」 少し焦れた俺は自分でも知らずのうちに高圧的な態度になり、そう言い放った。 俺の声が抗えない命令のだったかのように中指が茅野の中へ、つぷりと沈んでいく。 「……っん」 ゆっくり、ゆっくりと指が吸い込まれていく。 第二関節くらいまで指を差し込み、茅野は息を吐いて動きを止めた。 「は……ぁ……」 俺に開かれた膝がふるふると震えている。 「は……佐倉ぁ……」 茅野が左手で俺の腕を掴んでくる。 瞳がいつものように潤んでいる。 「いいの？茅野」 「あ……わ、分かんな……でも……ヘン……いつもより……」 「俺が見てるから？」 「そ……かも……わか、んね……っんっ」 茅野は喋る度、刺激に耐えかねて身体をうち震わせる。 見られて感じる茅野に、思わずゴクリと喉が鳴った。 「俺も、指入れてい？」 「で、も……一本しか……入れた事……な、っ」 茅野はそう言ったが俺も我慢が出来なかった。 自分の手と茅野の指が今入っているところにローションをたっぷりとかける。 「どうせそれより太いの入れなきゃなんねえんだから、広げないとダメだろ」 「……そ、だけど……」 「だから、お前がいいとこ教えて」 俺は左手をベッドに着き、茅野の指に沿うようにゆっくりと自分の指をあてがう。 「あ……っ」 それだけでビクリとする茅野の目元にあやすようにキスをした。 そしてゆっくり指を押し進める。 「あ……あっ、やっ、あ……佐倉、はい……って、く……」 「すげ、茅野ん中、アツい」 そして思ったよりずっとキツイ。 周りの肉がグイグイ締め付けているような圧迫がある。 でもローションの滑りのせいで入っていけないことはない。 「茅野。痛くねえ？もっと力、抜けねえの？」 「い……たくはな……い、けど、力抜くの……ムリ」 「痛くはねえんだな」 それを聞いて俺は少し強引に分け入った。 また茅野の声が上がる。甘い声色だ。 茅野の指が止まっているところまで指が届いた。 「茅野、ココ？」 「あ、や、やっ……んぅっ、押すな……っ」 明らかに何かに反応しているが、正直良いのか悪いのか分からない。 触り方がまずいのかと思い、撫でるように指を擦り付けてみる。 「ばっ……そん、なの……も、と……あ、あ、やぁ……や、ヘンになる……ぅ」 「なんだ、イイんじゃん」 しかもヘンになるくらいだって？ そんな場所が分かって攻めないはずがない。 「もうお前の指、抜いていいよ」 「え？あ、あぁ……」 茅野が指を抜くと、その身体を寝かせる。 そして茅野に考える暇を与える前に、俺は人差し指も同じように茅野の中に沈めた。 「は、あ……っ、や、うそっ……や、あ、あぁ……っ……」 中を探って分かった。 他と少し違うコリコリとしこった、そこが茅野が中で感じる所みたいだった。 そこを重点的に攻めたてると茅野が激しく乱れた。 指が白くなるくらいシーツを強く掴んで腰が浮いている。 「そんな感じんだ、ココ」 「や、やぁ……そんな、した、ら……アタマ、おかしく、なる……」 茅野の眸(ひとみ)が宙のどこかを見ている。まばたいて涙が頬を伝った。 「おかしくなれよ」 涙を舌ですくって茅野に口づける。 少し手を止めて茅野と目を合わせた。 「でも、ちゃんと俺のこと見ろよ、留衣」 「あ、はぁ……っん。うん……」 「ちゃんと見てろよ。誰がお前をおかしくしてんの？」 「さ……佐、倉……」 熱に浮かされた、うわごとのように茅野の口が動く。 俺はまた指で茅野の事を追い立てる。 「う、あ……っ……んんっ」 「誰がお前をこんなに感じさせてんの？」 「は、うぅ、ん……ぅ、佐倉ぁ……っ」 「……可愛い、留衣。もっと感じておかしくなっちゃえよ」 目を合わせたまま茅野は俺の前で快感に耐えている。 眸からは次々と涙が溢れていく。 そしてその眸には明らかに俺に縋る光が宿っている。 そんな茅野を見ているだけで俺の方がおかしくなりそうだ。 自分の感情の行き着く先が見えない。 理性とかもうどうでもいい。 なんなんだ、これ。 欲しい。茅野が、無性に欲しい。 最初っからこの気持ちはあったんだ。 それが強くなってるのは分かってた。 でも欲しいってなんだ、どうしたら鎮まるんだこの欲求。 何をこんなに欲しがってるんだ。 身体じゃない。いや身体も……もちろん欲しいけど。 確かにこの火照りは身体のもんだけど。 だけど射精(だ)して治まる類(たぐい)のもんなら、今まで何度もしてるはずだ。 だから違う。 もっと違うところが飢えてるんだ。 “茅野に──俺を欲しがって欲しい”んだ。 最初から、好きだと言わせたいのはきっとそのせいだ。 そうだ、それは“俺が茅野を欲しいから”だ。 まるで堂々巡りをしてるみたいだ。 一周まわって戻って来るのは結局そこ、だ。 「あのさぁ留衣のこと、なんも考えらんなくなるくらい、グッチャグチャに可愛がってい？そんでアタマもカラダもドロッドロにおかしくなって、俺のことだけ欲しがってよ」 グチャグチャなのは俺の頭だ。 だがそのやり場のない感情の矛先を、半ば茅野に八つ当たりするように言い連(つら)ねる。 「な、に……言って……」 訳の分からないことを垂れ流す俺に茅野が動揺した。 俺は構わず茅野の前にも手を伸ばす。 ソコは充分勃ち上がっていて溢れた汁でトロトロになっていた。 「や、んあっ……無理っ！……両、方なんて、ダメっ」 「なにがダメなんだよ」 「こ、んな、の……すぐ、イっちゃ……う」 「何回でもイケばいいじゃん」 言葉通り直後に茅野は身体を震わせ、飛沫(しぶき)を吐き出す。 それでも俺は中から茅野を蹂躙し続けた。 「あ、だ……め。イってる……から、今……イってる……て、ば」 「知ってるよ。分かってるから、触ってんの」 「あ、すご……いっ……また、あっ、は……あ、佐倉……佐、倉ぁ」 茅野の中が熱くうねってる。 俺の指を何度も締め付けて自分から快感を求めてるみたいだ。 一度イってから茅野は堰(せき)が切れたように立て続けに、もう何度も達していた。 茅野は朦朧(もうろう)とした表情で俺に全てを預けているように見える。 ずっと俺の名前を呼びながら。 でも、もっとだ。 俺の欲望はこれだけじゃ満たされない。 茅野の中の熱は冷めず、ほぐれてきたのか初めに比べるとだいぶ柔らかくなっていた。 「茅野？」 「佐倉ぁ……」 「ほら、ココ」 一度指を抜いて入り口の辺りを撫でる。 「こんなにヒクヒクして、やらしくなってる。分かる？」 「っあ、……あ……」 「お前もさっきからイキっぱなしで、すげえエロいし。俺もう限界」 言いながら唇を合わせて、ねぶるようにキスをする。 「留衣ん中入って、イイとこ突きまくってやりたいんだけど」 言葉を切って茅野の乳首に軽く歯を立てた。茅野の背が弓なりに反り返る。 同時に後ろの孔に少しだけ指を出し入れし、クチュクチュと卑猥な音を立てて聞かせた。 「お前、どうしたい？」 攻め立て続けられた茅野は蕩けたような表情で俺を見る。 いつもなら睨まれて文句を言われてもおかしくない場面だ。 だが、俺の期待通り茅野の理性も飛んでいた。 「んなこと、言われ、たら……おれ、もう……佐倉が、欲しい……よぉ」 有り得ない程の素直さで茅野はその言葉を口にした。 「素直な茅野って、ホント可愛いな」 茅野が持ってきたゴムを着けて、その上からローションも塗る。 入り口だけかなり抵抗を感じたが、散々ヌルヌルにしておいたせいで、あっけないほど簡単に入った。 ただ、挿入が簡単だっただけで、纏(まと)わり付く肉の締め付けと、うねる感じは相当強かった。 それだけに、挿れただけでイってしまいそうになる。 一瞬茅野は苦しそうに声を上げた。 けれど全てが収まると、その声は今まで聞いた、どの喘ぎよりも甘くて扇情的なものに変わって、愛撫のように俺の耳を侵す。 茅野の声も、中の感触も、何もかも、今までの行為をはるかに上回る刺激だった。 「なに、コレ。お前ん中……ありえねえくらい……気持ちい……っ」 「やぁっ、あ、佐倉っ。動くな……ん、はぁ……っ」 「……っく、気持ちい？さっき良かったの、この辺？」 「ひ、あ……ん、んぅ……あ、あぁ、や、やだ、それやっ……佐倉ぁ」 「あ、そう？嫌？本当に嫌なら止めるけど？でもそうじゃないなら、ちゃんと良いって、言えよ」 「違……っ。だ……って、よ、すぎて……怖……から……んっ、す、ごい……も、あ、あん……う、あぁ……っ」 茅野がしゃべる度に中が締め付けられ、普通に話すのが辛くなってくる。 「イイよ。すげえ気持ち良い……留衣っ」 「はぁ、……っれも、俺……もっ。き、もちい……」 お互い息も切れ、汗にまみれて限界が近かった。 「留衣？もうイク？」 「う……ん、イク、もう……もう、おれ……恭、司ぃ……っ」 「え？……っあ、くっ、留衣っ」 一瞬、茅野が俺の名を呼んだように聞こえた。 そう思った瞬間、繋がった部分ではない、どこからか身体を貫くような快感が走って、目の中に明滅するチカチカした光と共に俺はイった。