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第13話

──言葉も出ないくらいの脱力感だ。 茅野の上から退いてやらないと、と思いながらも指一本動かない。 「悪りぃ、重いよな」 「いや……」 茅野は即座に首を振った。 「重くねえの?」 「重い。でも、そうじゃなくて……」 茅野の腕が俺の首にゆっくりと回された。 「このままがいい」 そう言って、甘えるように頬を摺り寄せてくる。 「茅野?」 らしくない。あまりにも茅野らしくない言動だ。 「お前どうしたん……」 口にした言葉は茅野からのキスで途切れた。 「は……あ、あふ……ぁ」 茅野が俺に抱きついてキスをしている。 子猫がミルクを飲むように、懸命に舌を動かしながら。 チロチロと動く、つたない舌遣いが却っていやらしい。 俺は茅野にキスをされながら考えていた。 (前にキスで感じてたから続きしたら、キスだけで良かったって怒られたよな) これも、それなのか? それにしては、まるで誘惑しているような妖艶さだ。 でも茅野が仕掛けてきたんだ、このキスに応じるのはいいだろう。 ……多分それ以上をしなければ。 俺は茅野の舌を絡め取って受け身から攻め手に転じる。 「──あ、は……あっ、んん、はぁ」 声を上げながら、茅野は腕を滑らせ俺の背中に爪を立てた。 上半身が仰け反って弓なりになり、感じているのがわかる。 (これで、キスだけでいいって言われてもなぁ……) 途方もなく残酷な事を言う奴だ。 しかし、このまま事を進めたらまさかの第2ラウンドだ。 しかも茅野から誘った事になる。 それはいくら何でも期待しすぎだろう。 今さっきの事で茅野の身体にも相当な負担が掛かってるはずだろうし。 俺は名残惜しげに茅野から唇を離すと身体を起こした。 ゴムを外して、ウェットティッシュを探すと、向こうのテーブルにあるのが見える。 取りに行こうとベッドを降りようとすると、茅野に手を掴まれた。 茅野は黙って俺を見つめると、立ち上がりかけた俺を座らせる。 「茅野?」 そのまま茅野は膝ですり寄ってくると、おもむろに俺の股間に顔を埋めた。 「茅野!?なに?お前、どうしたんだよ」 茅野は無言で俺のものを口に含む。 俺がすることはあっても、茅野がすることは今までなかった。 それが今、茅野はまるで舐めて綺麗にするかのように隅々まで舌を這わせて精液を拭い取っている。 思わず腰が痺れる。 「茅野っ……んな事したら、また……」 「……おかしくなれって言ったの、佐倉じゃん」 茅野が口を離して上目遣いに俺を見た。 いやに挑発的な、そそるような目をして。 「それに……素直な方がいいんだろ?だから、素直になってんだよ。佐倉の……もっと、ちょうだい」 そしてまたそこに舌を伸ばす。 ソフトクリームでも舐めるように、わざと俺に見せつけているような舐め方だった。 もう俺は、それだけでイキそうだ。 「馬鹿、もう、離せ……っ」 しかし茅野は止めない。 俺は強引に茅野の顔をそこからはがした。 「口で、イかそうとしてんじゃねえよ」 俺は茅野の後ろに手を伸ばす。 さっきの名残でまだ充分に潤っている。 「中に欲しいんならイかせたら意味がないだろ」 そのまま、まだ熱い茅野の中に這入り込む。 茅野が苦痛とも歓喜とも取れる声を上げる。 「……そんなに()かった?挿れられんの」 「ん……気持ちイイ……すごい、イイ……恭司にされるの。……恭司だから、……すごく……」 茅野はまた名前で呼んだ。さっきのは気のせいなんかじゃなかった。 それにやばい、名前で呼ばれる度に、えも言われぬ快感が湧いてくる。 名前を呼ぶ時も、どこ、と指定できない場所がむず痒い様な気持ち良さをもたらすが、呼ばれてみて初めて分かった。 呼ぶ時の比にならないくらい気持ちがいい。 心理的な満足感なんだろうが、性的な快感にすり替えられて身体に伝わる麻薬のようだ。 こんなの、一瞬で落ちる。 このまま茅野に溺れても良いと思える。 ──堂々巡りの出口がやっと見えた。 どっちがどっちを好きとか、もう関係ない。 どうしようもなく茅野を俺のものにしたい。 「留衣、留衣……気持ちイイよ。お前ん中、すごい気持ちイイ。もうこのまんま離したくねえ」 「あっ、あぁっ、……恭司っ」 気持ちに身体が追いつかない。 いや、逆か?分かんねえ。 ただ茅野を欲しいという気持ちだけが、癒えない渇きのように強く襲ってくる。 だからもう、その想いに突き動かされた俺が言うしかない。 「おまえ素直になるって、言ったよな。じゃあ俺の事、好きだって言えよ」 「……っ、恭司……」 茅野は言えない、分かってる。 「言えねえか。なら言わなくていいや」 「恭……っ」 茅野からは口に出せない事ぐらい、もう充分知ってる。 だから、別にそれで良い。 そんな事にこだわるのは、もう意味がない。 「俺は、お前が好きだけどな」 「……え……?」 「だから俺と付き合えよ。俺は留衣を、セフレにしたいわけじゃ、ねえんだよ」 言って、茅野の深いところを何度も抉る。 茅野が何も喋れないくらいに激しく。 俺のすべての情欲を茅野にぶつけた。 何も考えさせず、ただ感じさせ、声を上げさせた。

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