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第35話
ガチャ……と音を立ててドアノブを回す
すると倒れている藤原を見つけ、怒りに体が震える
ゆっくりと彼に近づくと、俺に気がついたのか、弱々しく俺にニコリと笑いかけてくる
なんだよ…………笑うなよ…………ばかやろう………
朱雨の目の前にしゃがみ、顔をよく見つめる
抱きあげようと腕を動かした瞬間、彼がそろそろと力の入っていない腕を俺に伸ばし、その指先が頬をかすめる
その仕草にはじめて自分が泣いていることに気がついた
朱雨は……こんなに傷ついているのに…………俺の心配を…?………
苦しい気持ちと、嬉しい気持ちがごちゃ混ぜになり、力なく落ちていく手を自分の元にひっぱる
玲「ごめんっ……ごめんな、朱雨…………
こんなになるまで……気が付かないなんて……
ほんと……ごめん…………」
ボロボロと涙を流す俺……
そんな俺の姿に、ばか………と笑いながら言った朱雨…………
その顔は、ありがとう、とお礼を言っているような、遅い、と文句を言っているような複雑な顔だった
俺につられたのか…………泣き出してしまう朱雨
玲「遅れて……ごめんな…………」
改めて謝ると……朱雨の手にすりすりと頬ずりをし…………唇にキスしそうな俺を抑えるために……手にキスを落とす
すると、文句がありそうな顔をした朱雨と目が合った
やっぱり……嫌だったよな
そう思い、顔を離したのに…………
朱雨が俺の首に手を回し、グッと顔を近づけてくる
顔の近さに、心を読まれたのかと思い、驚いてしまう
俺とキスなんて……嫌だろう……と、そう思い、すっと離れようとしたのに、彼が少し傷ついた顔をしながら
ぷっくりとしたその唇を近づけ、チュと優しく吸い付いてくる…………
ふれた瞬間、ピリリとした快感が俺の体を走る…………
あれ…………俺、朱雨に……キスされている…?
ドキドキと心臓が逸るのがわかる……
落ち着け……俺、勘違いするな…………
…朱雨は彼氏持ちだ…………
俺とこんなことしたら……傷つくに決まっている…………
そう思って、静かに離れようとしたのに……
彼が見透かしたように、グッとまた引き寄せ、俺の唇をぺろりと舐める…………
くそ…………こいつっ…………
俺が朱雨のこと好きだと知っているくせに、煽るようなことをしてくるこいつに、愛おしさを通り越して、憎しさを感じる
口内を舌でかき混ぜてやろうか……
そう思い、舌を伸ばしかけた時、後ろから息を呑む音が聞こえた
その瞬間、母親がいることを思い出した
そうだ……ここ、朱雨の家だ…………
……こいつを今すぐ俺の家に持ち帰り、めいっぱい甘やかしたくなった
今まで傷ついた分も、こいつは愛される資格がある…………そう思った
朱「ふ、ふぇ!?」
玲「帰るぞ、俺の家に……」
母「ちょっと!!!まちなさいっ!まってっ………」
朱雨を抱きあげ、叫んでいる彼の母親のよこを通り過ぎる
だめだぞ……玲…………
……家まで我慢だ………………
逸る気持ちをを抑えようと
決心するように深呼吸をし、ちらっと大人しく抱かれている彼を見る
すると、そこには今にも泣き出しそうな、痛みに耐えているような顔をした朱雨がいた…………
……やっぱり……嫌だったのか…………
ズキっと痛む胸に気付かないふりをした
…………こいつは……彼氏持ちなのだと……改めて知らされる……………………
きっと今、彼氏じゃない俺にキスをしたことを後悔しているはずだ…………
朱雨…………ごめん………………ほんとにごめんな
だけど……お前を手放してやれない…………
彼氏未満でいい…………俺を好きになって…………
そう思いながら、痛々しい彼を静かに見つめた………………
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