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第54話
Side明琉
ピッ…ピッ…ピッ……………
機械音が響くこの部屋
この部屋には、俺と玲しかいない
ふと、ガラス越しに玲へ熱い視線を送る男に気づく
さっきまで不安でガタガタ震えていたとは思えないほど、目はしっかりと玲を写し、キュッと強く手を握り、無事を祈っているようだった
………………彼はここに入ってこれない……
なぜなら、血縁者じゃないから
……本当は外から眺めることも許されないのだが、玲の番だ、と彼が主張すると、あっさりと簡単にここまで通した看護師…………
……番の確認すらしてないくせに…………ぽんこつだな………………
…………まぁ、するまでもないけどさ…………
さっき、藤原さんにキスをした……
(まぁ、つむじだけど……)
それでも濃く匂った玲の香り…………
髪の毛に染み付いているなんて、相当だ
相当熱を入れていたことが分かる
この数時間でわかったこと……それは、この2人は相思相愛だということ………………
……………………面白くないな〜…………まったく……
僕は玲が好きだ
もちろん、恋愛的な意味はない
だが、人として、兄として完璧な彼は
とてもかっこよくて、憧れの存在だった……
………同時に……永遠に勝てない、遠い存在でもあった
『玲くんはとっても賢いわね〜
あ、明琉くんも賢いわよね!』
『明琉、あんたも頑張りなさいね!
あんたも地頭はいいんだから……
期待してるから』
『ねぇ、明琉くんのお兄さんかっこいいね!
紹介してよ〜
あ、明琉くんもかっこいいけどさ!』
『お前の兄さんはまじ完璧だよな〜
あ、お前も完璧だけどさ………………』
近所のおばさん、母、彼女、友達…………
全員、僕は後回し…………
まず、兄を見てから僕を見る
そして…………比べて、必ず言われるセリフ
『お前も完璧だけどお前の兄貴には負ける』
………………そんなの、僕が1番よくわかってる……
勉強、性格、運動……なにひとつ勝てなかった…………
………………だが……ただひとつ、勝てることがあった………………
…………それが……恋愛面…………………
兄は多分、恋愛が苦手だ
今まで彼女を見た事がなかったし、噂も聞いたことがなかった
だから、僕はたくさん恋人を作った
彼女、彼氏、セフレ………………
恋愛の腕を磨けば、いつか、僕自身を見てもらえる……………………
そう思ってたのに………………
ギロッとバレないように外で項垂れている彼を睨みつける
涙をいっぱい貯めた瞳
キュッと弱音を吐かないように閉ざされた口
真っ白になるまで強く握られた手
その仕草全てが、彼に愛を伝える行為な気がして……腹が立った
なにより腹が立ったのは……彼が今まで見た男の中で1番の美人だったことだ…………
あんなに綺麗で妖艶な見た目の男はいなかった
……あんな男……僕は知らない………………
気の強そうな見た目をしているのに、あんなに玲に従順な彼………………
どうして、僕じゃなくて玲なんだ………………
玲より僕の方が……恋愛スキルは上なのに…………
傍から見ればくだらない一方的な張り合い………
だが、僕にとってこれは死活問題だった
面白くない……本当に……面白くない…………
僕の価値は……恋愛しかないのに………………
僕が今まで付き合った奴らとは比べ物にならないほど、綺麗で従順な彼を……玲がものにしている事が………………とても気に入らなかった………
許さない…………全てにおいて、僕の上に立ち………僕の価値を奪った玲…………そんな玲に価値を与えている彼………………
玲の持っている価値を………奪い取りたい…………
そのためには…………藤原さんを………………僕のものにする必要がある………………
玲を一心に見つめている彼を、見つめる…………
藤原さん……………絶対…………堕とすから………………
待っててね………………
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